日本代表として国際Aマッチ87試合出場。2度のW杯を経験した歴戦のベテランであっても、冷静さを失い、周囲の状況を正しく把握できない。そういうことが、時としてあることを実感させられた場面だった。

サッカーにおける疲労は、何も足だけにたまるものではない。場合によっては「頭」にくる。たった一呼吸置けば、まさかそういうことはしないだろうということを、頭脳が疲れていればやってしまうことがある。試合後、冷静さを取り戻せば「なぜあのような行動をとったのだろう」と悔いてしまうプレー。それで試合の勝敗が決まったのだとしたら、ダメージはさらに大きい。

2日のチャンピオンシップ(CS)決勝第1戦。後半ロスタイム6分に入った広島の決勝点は、G大阪からすると与えなくてもいい1点だった。自陣右サイドのスローイン。ボランチの今野泰幸が入れたボールは、広島の森崎和幸に直接渡り、そのボールをつながれて致命的な失点へと形を変えた。しかし、少し頭を冷やせばその必要があったかということになる。

確かに、今野の気がはやったのも分からなくはない。後半36分に自らの素晴らしいボレーで一度は勝ち越した。「勝てる」と思っていた試合を、後半ロスタイム1分で同点にされたのだから落胆は理解できる。同時に、再び勝ち越し点を狙おうという強い意思を持っていたことも不思議ではない。ただ、客観的に考えれば第2戦もあるのだから、一番大事だったのは負けないことだったはずだ。

場面をスローインの時点に戻すと、今野はあそこまでプレーを急ぐことはなかった。それ以前にスローインはサイドバックの米倉恒貴に任せるべきだった。なぜなら今野のポジションはボランチ。最終ラインの一列前で、中央のスペースを埋めるのが役割だ。G大阪はこの時点でDF呉宰碩(オ・ジェソク)が退場していた。数的不利の状況で、本来は中央にいるはずの選手がサイドにいればゴール前の人数が少なくなってしまうのは必然だ。

広島の決勝点は、一度G大阪のペナルティーエリア外の中央付近にボールをつなぎ、そこから左サイドへ展開したもの。結果論ではあるが、今野が右サイドではなく中央のポジションをとっていれば、広島のパス回しもまた違うものになっていたかもしれない。

重要な試合になれば気合が入るのは当然だ。だが、気合は往々にして脳みそのエネルギーを余計に奪い去る。後半41分に清水航平を両手で突き飛ばして、一発退場となった呉のプレーも冷静な判断ができなかった典型だ。「この大事な試合で、なんとバカな」と多くの人が思っただろうが、もし練習試合ならば、呉は手を出さなかったに違いない。

試合展開も、激しい消耗を伴う今回のような神経戦に影響を与えたことは間違いない。その中で、より平常心で戦えたのは広島ということになる。

それにしても、広島は隙のないチームに成長した。チームとしての完成度が限りなく高い。そして、驚くべきは毎年のように主力級の選手を引き抜かれても、新たに獲得した選手を瞬く間にチームのパーツとして高いレベルで組みこんでしまうことだ。くしくもこの日の得点者は、今年加入したドウグラスと佐々木翔、そして2年目の柏好文。それが古参の選手のようにチームになじみ、活躍をしている。就任してからの4年間で3度目の日本一に王手をかけた、森保一監督の手腕は見事としか言いようがない。

単純にこの一戦は見応えがあった。中でもロスタイムに広島が見せたサッカーは、特に面白かった。このチームはどうしても守備が強いという印象が先立っていたのだが、右サイドのFKを直接ゴール前ではなく中央の青山敏弘を経由して2点目を奪ったプレーのアイデア。そして、これでもかとパスをつなぎ、3連発の波状シュートで決勝点をもぎ取った力強さ。人は自分の予想を覆す、より素晴らしいプレーを見せられれば、心から楽しいと感じるとあらためて思った。

11年ぶりに復活したCS。試合が実施された過去9回では第1戦を制した7チームのすべてが優勝を飾っているそうだ。広島は間違いなく大きなアドバンテージを握った。それでも、森保監督は「優勝に結び付けてこそ今日の勝利が生きてくる」と慎重だ。現役時代は良い意味での地味なボランチ。それだからだろうか、この人の頭脳に宿る思考は、やはり“堅い"。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。