1966年に静岡県で起きた一家4人殺害事件で死刑判決が確定後、昨年3月の再審開始決定で48年ぶりに釈放された元ボクサー、袴田巌さん(79)の日常を追ったドキュメンタリー映画「袴田巌 夢の間の世の中」が完成、来春には劇場での公開が全国で始まる。

金聖雄監督は「スクリーンに映し出される巌さんの存在が、生きることの尊さを、静かに問いかけているような気がしてならない」と語っている。

タイトルの「夢の間の世の中」は、袴田さんが獄中から知人に宛てた手紙にあった言葉を使用しており、また本人が筆で書いたタイトルの題字が映画に花を添えている。

釈放の翌月から今夏まで金監督とスタッフはカメラを回した。映画監督の周防正行氏は「失われた時を求めても、そこには虚しさがあるばかり。だが、それでも私たちは失われた時の意味を問わねばならない」とコメントを寄せた。

袴田事件とは66年6月、静岡県清水市(現静岡県清水区)で味噌会社の専務一家4人が殺され、放火された事件。味噌会社の従業員だった袴田さんは元ボクサーに対する偏見もあって逮捕され、拷問に近い取り調べで「自白」を強要されたが、裁判では一貫して無実を訴えている。

80年に死刑が確定したが、再審を求め続け、ついに再審開始決定にこぎつけた。静岡地裁は「証拠はねつ造。これ以上の拘留は正義に反する」と説明し、釈放につながった。

しかし、検察庁が即時抗告したため、袴田さんは今も死刑囚のまま。東京高裁の再審可否判断に時間がかかっているのが現実だ。

金監督は「死の恐怖から逃れようと必死で生き抜いてきた。今も深い闇を抱えている。平凡な日常の積み重ねが闇を照らし始めている」と話し、袴田さんの姉・秀子さんも「巌のあるがままの姿を見てほしい」と映画への感想を口にした。

袴田さんを長い間支援しているボクシング界は11月30日、後楽園ホールのリング上で関係者が強く釈放への思いを訴えた。

約2時間のドキュメンタリー映画。袴田さんの闘いは我々に何を教えてくれるのか。ファンだけではなく、一人でも多くの人に見てもらいたい。(津江章二)