1989年にF1にデビューし、2000年まで活躍したジョニー・ハーバート氏。1990年からは全日本F3000選手権で走ったほか、翌年のルマン24時間ではマツダから出場して総合優勝を果たすなど日本との関係も深い。現在はイギリスのテレビ局でF1解説者として活躍しており、その人なつこいキャラクターから人気は高い。

だが、そんなハーバート氏が唯一明らかに距離を置いているドライバーがいる。それは、ワールドチャンピオンに7度輝いたミヒャエル・シューマッハー。自身の引退パーティーに招待しなかったことは有名な話だ。ハーバート氏によると、距離を置く最大の理由は正々堂々と戦わない姿勢にあるという。

「ドライバーは誰しも最高のマシンに乗りたいし、自分の環境をよくすることに集中するものだ。自身がベストにいるためにね。でも、ミヒャエルは勝つためには手段を選ばないタイプだ。チームメートへ圧力をかけるのは当たり前。相手を落とし、相対的に自分を上げて環境を整えなければ満足しない」

ハーバート氏が元王者についてそこまで痛烈に語るのには理由がある。シューマッハーとチームメートだった95年、理不尽な扱いを受けたのだ。ハーバート氏の走行データを見ることができたシューマッハーに対し、ハーバート氏にはそれが許されなかった。このほかにも、走行テストはすべてシューマッハーが担当した。

シューマッハーは速く、誰よりも努力を惜しまないドライバーだ―。F1関係者の誰もがそう口をそろえる。しかし、いいやつかと問うと、その評価は真っ二つに分かれる。一方、ハーバート氏をいいやつかと問えば、誰もがいいやつだと答えるだろう。

スポーツの世界では“いい人では勝てない"という言葉や、王者になれないというエピソードは多い。ハーバート氏も元チャンピオンのジェームス・ハントが「ナイジェル・マンセルより速い」と評価したが、F1での勝利は3勝にとどまった。

そんなハーバート氏に、2季連続で王者争いを繰り広げたルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルク(ともにメルセデス)について聞いてみた。最強のマシンを手にしながらも、いまだチャンピオンを取れないロズベルクをどう見るのか。「ニコにはまだまだチャンスはある。チームメートは間違いなく速いけど、彼次第だ。チームは彼の味方なのだから」

今シーズン、ロズベルクは5勝を挙げるも、ハミルトンは2倍の10勝を挙げて3度目の年間王者を獲得した。そして、ハミルトンの性格には難があるが、ロズベルクはいいやつだ言う関係者は多い。このまま、「いい人」で終わってしまうのか、それとも「やはり速い」と言わしめるのか。シーズン最終戦のアブダビGPはロズベルクにとって、来季への意気込みが問われる戦いとなるだろう。(モータージャーナリスト・田口浩次)