日本野球機構(NPB)の熊崎勝彦コミッショナーが11月10日、野球賭博の巨人3選手に「無期の失格選手」の処分と巨人に1千万円の制裁金を科した。

機構内に常設された調査委員会の報告を受け、「黒い霧事件」以来、実に46年ぶりに失格選手という断を下したのである。

永久失格ではなく無期という“有期の罪"で、5年ほど過ぎれば野球界に復帰できるともいわれている。だが、独立リーグや社会人野球などが受け入れるとしても、もっと年月が必要になるだろう。

そのことはともかく、事件発覚から約1カ月。早期の解決を図った格好だが、果たして事件の全容が解明できたのだろうか。

警視庁が3選手を事情聴取したそうだが、日本で絶大な人気を誇るプロ野球だけに、中途半端な印象を残しては禍根を残すことになる。

▽危機管理の甘さ

事件は10月上旬に福田聡志投手が野球賭博をやっていたことが発覚。その後の調査で笠原将生、松本竜也両投手もやっていたことが判明して今回の処分となった。

巨人を含め各球団とも選手教育をやっていたはずだが、球界の盟主を自認する巨人の選手が起こした事件の衝撃は大きい。

笠原投手は無類の賭け事好きで裏カジノへ出入りしていたとも噂され、福田投手は暴力団幹部との付き合いを吹聴していたとも言われていた。

もし事実なら、球団の危機管理の甘さは免れない。というのも、そうしたことは仲間の選手たちが知らない訳がないからだ。

特に巨人の親会社の読売新聞は警察関係の情報には強いはずで、未然に手が打てる機会はあったと思われる。

▽なぜ巨人の選手が

逆の見方をすれば、そこに選手の甘えがあるような気がする。この前も書いたが、3年前に巨人の監督が女性問題で1億円を払ったことが報道された。

読売は大きく紙面を割き「払った相手は反社会勢力ではない」と守り、当時のコミッショナーは何事もなかったかのように、調査どころか当事者に「野球に専念してください」と激励してひんしゅくを買った。

こうした社会の反応や球界の態度を、巨人の若い選手たちは目の前で見ていた。われわれは超人気球団の選手で、少々のことをしても守ってくれる―と錯覚したとしても不思議ではないだろう。

それでなくとも、人気者のプロ野球選手はちやほやされる。事件につながりかねない「種」はあちこちにある。

▽調査の限界?

NPBは各球団からの報告に基づき、巨人3選手以外に野球賭博に手を染めていた選手はいないと結論づけた。ただ、一方で強制力がない調査委員会の限界も口にしている。

熊崎コミッショナーは「捜査と違い、調査というのは相手が任意で応じないと対応できない。組織的全容解明ができていないと認めざるを得ない」と会見で説明した。

元東京地検特捜部長がこういうのだから、強制力のない調査の難しさ分かるが、こう聞かされたファンはどうしても玉虫色の決着だと思ってしまう。

少なくとも機構内の調査委員会ではなく、利害関係のない第三者委員会を立ち上げるべきだった。

さらに早急な結論に首をかしげる向きは多い。事実認定と選手の責任だけに終わっていて、野球賭博という「深い闇」に踏み込んでいないし、具体的な「選手教育」のプログラムも出せない。調査報告書の体をなしていないという指摘だ。

世は暴力団撲滅に向かっている中で、もっと警察と連携して真相解明の乗り出すことはできないのだろうか。

麻雀好き、パチンコ好きの域を超えた賭け事にのめり込んだ先にあるものは過去の「黒い霧事件」が教える通りである。

大相撲も反社会勢力との関係が取りざたされ、八百長問題から人気が急落したのは記憶に新しい。

▽疑わしくは罰する

プロ球界は自分たちの恥として早く幕を引きたいと思うだろうが、それでは社会やファンの納得は得られない。1969年に発覚した黒い霧事件では「疑わしきは罰する」姿勢を貫いたのである。

当時は複数の有識者からなるコミッショナー委員会が事件の処理にあたったが、憲法学者の宮沢俊義コミッショナーを中心に断固とした態度で臨み、6人の選手と一人の球団職員を永久失格処分にした。

その中の一人が池永正明氏。黒い霧では池永氏は100万円をもらったことは認めたが、八百長には加担していないことから、近年、多くのファンの嘆願がかない、処分が解除された。

若き有望な選手の世間知らずや当時の球界の体質が生んだ悲劇ではあるが、厳罰がその後の球界に教訓となって今日に至っていることを忘れてはならない。

コミッショナーの役割・理念が問われているのが、今回の事件だと思っている。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆