青木宣親の大リーグ4年目は、天国と地獄のようだった。昨季のワールドシリーズを制した伝統球団ジャイアンツに新加入し、開幕から「1番・左翼」に定着。前半戦はリーグ5位の打率3割1分7厘をマークした。「優勝を狙えるチームで定位置を取りたい」という希望がかない、オールスター戦初出場のチャンスもあった。ところが、相次ぐ死球禍で戦列を離れ、復帰できないままシーズンが終了した。

日本仕込みの「スモールボール」が武器で、本人も「何でもできるのが自分の強み」と話す。打席では1球ごとに意図を変える。一発長打を狙ったかと思えば、自身はアウトになっての進塁打もある。相手バッテリーの配球や野手の位置取りを勘案して狙いをチェンジ。

昨季所属したロイヤルズのムーア・ゼネラルマネジャー(GM)と、今季所属したジャイアンツのエバンスGMは口をそろえて「ピンチで最も有効な防御策である三振を取るのが難しく、投手の嫌がるタイプだ」と評価する。メジャー4年間で打席に2203回立ち、三振は169個。約13打席に1度しか三振がない。

2015年シーズンは、2個の死球で幕を閉じることになった。6月下旬に右足に投球を受けて腓骨を骨折。8月上旬には頭部にぶつけられ、頭痛やめまいなど脳振とうの後遺症はレギュラーシーズン最終日まで収まらなかった。ともに内角のカットボールだった。「投げたときは直球のように見える。でも食い込んできて、よけられない」と振り返った。重心をグッと下げてオープンスタンスで構える青木は踏み込んで打つ。ともに相手投手は右で、三塁側に左足を踏み出して投げ、投球が本塁に向かってクロスしてくるタイプだ。よけにくい要素が重なってしまった。

好調だっただけに歯がゆい思いだろう。ただ、恨みがましいことは一切、口にしていない。それどころか、頭部死球の相手投手を「ほれぼれするようないい球質なんだよね。あの内角球をよけられたら、彼の外角球は打てない」とたたえている。話を聞いていて、すがすがしさを感じるほどだ。

第2次世界大戦の欧州戦線で勇名をはせたジョージ・パットン米陸軍大将は、前線に立って全軍を叱咤する一方で、暴言なども目立って何度も左遷を経験した人物だ。闘将パットンはこう言っている。「成功を計る尺度は、頂点にいるときに何をするかではない。どん底に落ちたときにどれだけ高く跳ね上がるかだ(The test of success is not what you do when you are on top. Success is how high you bounce when you hit bottom.)」。青木の来シーズンに、大いに期待したい。

伊藤 光一(いとう・こういち)1972年生まれ。神奈川県鎌倉市出身。共同通信入社後、社会部、大阪社会部で事件・事故取材などを担当。2009年から運動部でラグビー、プロ野球などを取材し、13年からロサンゼルス支局で大リーグを中心に取材。