巨人の監督選びを見ていて、正直「大丈夫かいな」と思った。

原監督が辞任したのが10月19日で高橋新監督が就任を受諾したのが23日。40歳の若い指導者はあっという間に誕生した。

球団は今年で契約が切れる原監督の退団は決めていて後任選びに着手していたようだが、20日に就任要請された高橋の言動を見ていると、将来は別にして今回監督候補に挙がっているとは考えていなかったと思われた。

選手としての区切りを付ける「引退を決断」しなければならないし、伝統ある巨人を率いる「覚悟」もしなければならない。

何より指導者としての勉強や経験もないまま監督に祭り上げられた感じである。

▽降ってわいた野球賭博

福田に加えて笠原、松本竜と巨人の3投手が野球賭博をやっていたことが明らかにされた。巨人としても「球界の盟主」の座が揺らいでいるのだが、このことと今回の性急な監督選びは関連していると見る。

巨人が監督をやらせたいのは松井秀喜氏であるが、松井氏は米国で指導者の勉強中で、頑として首を立てに振らない。

ポスト原に江川卓氏や川相コーチの名前は挙がったが、「ダーティー・イメージ」「無名」ということで具体化しなかった。高橋監督は慶大―巨人の野球エリートでフレッシュなスター監督の誕生で球団の失地回復を図ったと思う。

▽厳しい現状戦力

原監督は2度にわたる12年間の監督生活で7度のリーグ優勝と3度の日本一を成し遂げた。

V9監督の川上哲治氏に次ぐ実績だが、その割に周囲の評価は高くない。球団もFAで大物選手獲得など勝てる戦力を与えたと思っている節がある。

一方、ここ数年の巨人の戦いは「勝つためのその日暮らし」といったもの。特に昨年あたりから阿部、村田など主力選手の衰えもあり、打線を固定しない戦いぶりで、投手陣も今季はマイコラス、ポレダという外国人投手がいなければもっと下位に沈んでいただろう。

チームの軸不在も顕在化し、中期的戦略が立てられない「常勝巨人」の弱点がもろに出たのである。これを立て直すのは並大抵ではない。二つ目の「大丈夫かいな」だ。

▽監督の役割

監督のタイプにはいろいろある。チームづくりのうまい人、戦力をうまく使い勝ち負けを争う人、その両方ができる人などである。今の巨人に求められているのはチームづくりだと思う。

ロッテで監督をした金田正一氏は「猛練習でチームを作り変えるには適任者」と評され、星野仙一氏も選手の意識改革ができる監督と言われた。野村克也氏が阪神監督を辞するとき、オーナーに星野氏を次期監督に推薦したぐらいだ。

中日監督時代の落合博満氏も練習漬けでチームを変えた一人で、その後は優勝争いを繰り返した。

もちろん、金田氏や星野氏もチームを変えただけではなくリーグ優勝に導いた監督だった。

いずれも個性豊かな人物ばかりであるが、70人以上の“わがまま集団"を牽引するのは大変で、だから「やってみたいのはプロ野球の監督とオーケストラの指揮者」と言われるのだろう。

▽示せるか野球観

高橋新監督が選手の意識を変えることができ、若手選手の中からチームの中心選手を育てることができるかどうか。監督として野球に対する考え方、つまり「こういう野球をやる」という野球観が求められるのである。

年上ばかりのコーチ陣を引っ張り、自分の考えをどう浸透させるか、リーダーシップが試される。

打撃兼任コーチは経験したが、指導者経験はないに等しい。現役引退即監督となり1年目最下位となった長嶋茂雄氏のことを思い出すファンは多いだろう。

▽阪神は金本新監督

もちろん、新人監督が即優勝した例は17度あり、日本一も10度を数える。コーチ経験がなくても勝てるのは今年のソフトバンク・工藤監督を見るまでもなくあるが、こちらは少ない。

2年連続最下位のヤクルトを14年ぶりにリーグ優勝させた真中監督は2軍監督のときから「1軍監督」を意識しながらやっていたという。

こういう監督選びが本流だと思う。その点、高橋監督や阪神の金本新監督が監督要請に戸惑う言葉を口にしたのは、本人たちが経験不足を不安に思っているからだ。日本球界が改めようとしない「指導者の資質」より「スター性」を優先する監督選びの結果なのである。

阪神も中心選手づくりが急務である。4年で和田監督を見限った阪神のオーナーは「(和田監督に)十分な戦力を与えられなかったのは申し訳ない」と言った。それならまず球団フロントを強化し球団の方向性を定めてから監督を選ぶべきだと思うが、いつも監督交代で済ましてしまう。勝てないはずである。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆