クライマックスシリーズ(CS)直前にプロ野球界に衝撃が走った。

10月5日、巨人が支配下選手の福田聡志投手が「野球協約が禁じている野球賭博行為に関わっていた」と発表。野球協約に基づき、直ちに日本プロフェッショナル野球組織(NPB)の熊崎コミッショナーに告発する旨を公表し告発した。

巨人によると、福田投手はチームメートに紹介された男性から今年8月の高校野球甲子園大会の複数試合で賭けを行ったというもので、その損失分を取り返そうと、男性に言われるままに今度はプロ野球やメジャーの試合に賭けた。その中には巨人の試合が含まれていたという。

▽損失は百数十万円?

球団の公表した賭けによる損失額は百数十万円。9月30日に男性が川崎市にある巨人のジャイアンツ球場に福田投手を訪ね精算を迫ろうとしたことから発覚したのだが、そんな公の場所でお金を取り返せると思ったのだろうか。違う意図も疑われる。

福田投手が野球賭博をやめたのは子どもが生まることからだそうだが、球団調査によると両者の間にそれまで金銭のやりとりはないというから不思議な関係だ。

福田投手は2012年に8勝を挙げており、数千万円の年俸をもらっていてもおかしくないだけに、十分に精算できる金額だと思う。だからもっと損失があったのではないかという疑問はぬぐえない。

▽相撲界を揺るがした野球賭博

NPBはこの問題を即座に常設の調査委員会に委嘱して調査を始めた。結論まで1カ月以上かかるそうだが、元東京地検特捜部長の熊崎コミッショナーは刑事告訴の可能性を否定していない。

球界もファンもこの野球賭博の奥底に「八百長問題」が潜んでいないかを心配している。当然であろう。

巨人によると、男性と反社会勢力の関係は今のところないとしているが、NPBの調査によって新たな事実が出て来て、警察などの強制捜査ともなれば、どんな広がりを見せるか余談を許さないことになる。

逆に少しでも疑念があれば「プロ野球界の潔白」を証明するためには腹をくくる覚悟が必要ともいえる。

2010年に日本相撲協会が力士ら29人が野球賭博をやっていたと発表し、大関琴光喜が解雇される騒ぎとなった。

暴力団との関係解明に力を注いだのも、大相撲の八百長に発展することを恐れたからだ。実際、翌年には八百長問題で実に20人以上の力士が引退に追い込まれる大騒動となったのは記憶に新しい。

▽野球賭博の広がり

社会人野球チームの選手たちが高校野球を賭けの対象としたり、大阪にあった野球の独立リーグの選手が野球賭博に関わり逮捕された。

台湾プロ野球で八百長に元日本人選手が直接関与した事件は6年ほど前のことだ。メジャーでは通算最多の4256安打の記録を持つピート・ローズ氏がレッズの監督だった16年前に野球賭博に関わったとして永久追放処分となり、いまだに球界復帰はかなっていない。

欧州サッカーの八百長が報道されたのは、つい最近のことだ。決して対岸の火事ではない危険がここかしこにあると思った方がいい。

スポーツが賭けの対象になるのは洋の東西を問わず、だから「公認の賭け」ということになるのだが、日本でもプロ野球をスポーツ振興くじ(toto)の対象にする動きがある。

裏を返せば、野球賭博は裏社会の貴重な収入源として、いまだに幅をきかせている実態が容易に想像できるようだ。

▽「黒い霧事件」

今回の事件で、1969年に起きた「黒い霧事件」を思い出したファンは多いだろう。西武の前身である西鉄の選手が起こした八百長試合が発端だった。

西鉄の投手が暴力団関係者からわざと試合に負ける敗退行為、いわゆる八百長試合を持ちかけられ、実際に行われたことが発覚した。

国会でも「野球と暴力団」が取り上げられ、すごい勢いで広がっていった。野球に限らずオートレースでの八百長にもプロ野球選手が絡んでいたことも判明するなど、6選手と球団職員一人に永久追放処分が下された。

期限付き職務停止という処分を受けた選手も多くいた。野球界は「疑わしくは罰した」のである。

▽福田事件の持つ意味

今回の福田投手の件が大々的に報道される背景には、球界の盟主を自認する巨人の選手だったこともあるが、なによりプロ野球がこうした苦すぎる過去を持っているからだ。

プロ野球選手ともなれば人気者であり、周りに人が集まってくる。少年たちの憧れの的でもある。だからNPBは「新人研修」を行い、球団独自にも警察関係者を招いて反社会勢力に対する注意を喚起し続けている。

「黒い霧事件」から45年経ち、多くの選手たちは知らない世代となっている。八百長といっても実感は持てないのかもしれない。さまざまな研修会などが形骸化している実態はないか。こちらも調査する必要があると思う。

3年前、巨人の監督が過去の女性問題の決着のために1億円を払ったことが明るみに出た。巨人側は相手は反社会勢力ではないと主張したが、当時のコミッショナーは調査するどころか、その監督に「野球に専念してください」と激励して、周囲をあきれさせた。

その監督は「若気の至り」だったと思いたいが、それを調査して真実を明らかにするのが、「黒い霧事件」の再発を防ぐ球界トップの役割なのだ。

福田事件の背景を解き明かす意味は小さくはない。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆