ホームで1―4、アウェーで0―4。2戦合計では1―8の大敗と、手も足も出なかった2年前のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝を思い起こせば、一歩前進したともいえる。ただ、J1柏にとって広州恒大(中国)は、依然として圧倒的な力の差を感じさせる格上の存在だった。

15日に敵地・広州で行われたACLの準々決勝第2戦。ホームでの第1戦を1―3で落としている柏が、どのように開き直るのかに注目していた。とはいえ、2年前のアジア王者を相手に柏が準決勝進出を果たすには、ハードルは限りなく高かった。求められる条件は3―0、もしくは4得点以上した上で2点差以上の勝利。延長戦に持ち込むためでさえ、3―1の勝利が必要で、最低条件となる3ゴールを奪うために柏がリスクを冒した攻撃をどのように見せるのか楽しみだった。

パウリーニョ、エウケソン、リカルド・グラルの強力なブラジル・トリオを前面に押し出し、中国代表の選手が脇役としてハードワークに徹する。名将スコラリ監督に率いられたチームは、間違いなく中国代表よりも強力だろう。その強い広州恒大を相手に、真っ向からの勝負を挑んだ柏の勇気自体は、たたえられるものだった。

難敵を相手に柏が勝利への可能性の確率を高めるためのポイントはただ一つ。間違いなく、先制点だった。期待通りに前半12分、柏は先制点を見事な形で奪った。小林祐介が倒されて得た右サイドのFK。キッカーの茨田陽生のボールが絶妙だった。DFがポジションを修正しにくい高さ2メートルぐらいのスピードボール。これを守備網の間に入り込んだクリスティアーノが頭で合わせたのだ。

それにしても見事なシュートだった。Jリーグではこのところあまりお目にかかれない、いわゆる「豪快」という表現がピッタリの強烈なヘディングによるゴール。ペナルティースポット付近から体を捻ってファーポスト際にたたき込まれたクリスティアーノの完璧な得点は、その美しさも相まって「もしかして」の期待を持たせるに十分だった。

次の1点を奪えれば、広州恒大といえども必ず浮足立つ。逆に広州恒大が得点すれば、柏の可能性は限りなく遠ざかる。その重要な分岐点で、次のスコアを動かしたのは残念ながら広州恒大だった。

「あれを決められたら、しょうがない」

見た誰もがそうつぶやいて諦める。広州恒大の同点ゴールはそれほどまでにビューティフルな一撃だった。前半30分。左サイドのジョン・ジーが右足で入れたクロスは、アウトに掛かったのか右方向に大きく変化した。

その難しい弾道のボールをダイレクトで合わせたのがフアン・ボーウェンだった。ペナルティーエリアのライン付近から放たれた左足ボレーは、矢のようにゴール左隅へ突き刺さった。これを止められるGKは、世界中に誰一人としていない。そういうレベルのミラクル・シュートだった。

終わってみれば、アウェーで1―1の引き分け。この結果の捉え方は、人それぞれ異なるだろう。「広州(恒大)に圧倒されて負けたわけではない」という鈴木大輔のような意見もあれば、「アジアの壁は高い」というキャプテン大谷秀和のような感想もある。

そのなかで一つ言えることは、広州恒大側から見た感想もあるということだ。マルチェロ・リッピ監督が率いた2年前の準決勝では、2戦ともに手を抜くことはなかった。その結果、柏は8ゴールを失い、完膚なきまでに打ちのめされた。しかし、今回は準々決勝。勝ち進めばいいという計算がスコラリ監督にあったとしても不思議はない。この第2戦はあくまでもハーフタイムを挟んだ後半戦。結果、2―4のスコアは大敗とまではいかないまでも、完敗であることに間違いないのだ。

力関係を考えれば、同点とされた時点で準決勝進出の可能性は限りなく消えた。その状況で、残念だったのは柏の日本人選手から最後までガムシャラ感が伝わってこなかったことだ。「どうにかしてやろう」という気持ちが伝わってきたのは、この試合のマン・オブ・ザ・マッチに輝いたクリスティアーノだけ。終盤のパワープレーでDFエドゥアルドが最前線に上がったのが吉田達磨監督の指示かは分からない。だが、失うものはないのだから、「オレが、オレが」という日本人選手がもっといてもよかったのではないかと思う。

悪あがきは、日本社会においては潔さに欠けると見なされる。ただ、サッカーでは勝利への執念の表れでもある。各年代を通じて、敗戦のホイッスルをあまりにも淡泊に受け入れ過ぎる日本人選手を見ていると、それでは何も起こらないと伝えてやりたい。サッカーの世界では、「奇跡」は悪あがきをする者にしか訪れないのだ。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。