熱戦が繰り広げられ、シーズン真っ盛りのプロ野球を題材にしたスポーツビジネスの授業が今、関西の大学で行われている。教壇に立つはオリックスの球団幹部。いつも取材している「勝った、負けた」の世界から少し視点を変えてみて、講義をのぞきに行った。

「試合の宣伝費がないのなら、始球式の権利を企業に譲って、その企業が始球式の募集をすれば同時に試合の告知にもなる」。6月の奈良・帝塚山大の教室。オリックス事業本部の三上尚弘部長(58)の熱のこもった声が響く。講師を見つめる学生のまなざしは真剣そのものだ。春から受講する学生たちは、授業の一環として9月に奈良・橿原市で行われるオリックス2軍戦の集客戦略を考えることになった。目標は、宣伝費なしで観客3千人を集めること。観客が集まりやすい地方球場での試合とはいえ、2軍戦でこれだけの人数を集めるのは非常に難しい。

そのために三上氏が、実際にスポーツの興行で行われている手法を学生たちに紹介する。先述した始球式の権利譲渡の話もそう。どうすれば企業にとってうま味のある企画となり、お金を創出できるのか。学術的な理論はできるだけ出さず、オリックスが実際に取った方法を通して説明があるので授業がとても分かりやすい。三上氏によれば、プロ野球にはお金を創出できるイベントや空間が随所にあり、これを考えることが大きな勉強になるのだという。

6月に訪れたこの日は、具体的にどの企業にスポンサーをお願いするべきか、ということが一つの題材だった。「地元のバッティングセンターに協力してもらえれば、奈良県の野球好きに情報が届きやすい」「あの地元の小売店は、会員数が8万人もいるので効果がありそう」などと学生同士が意見を出し合う。程度の差こそあれ、こうした風景は球団職員が日常でしていることと何ら変わらない。

授業を見学した後、自分自身も試合や球場を見る目が変わった。「この企業は、どんな意図でこの看板を設置したのだろう」「始球式で大物タレントがテレビ番組のPR。でもこれは球団にとっても集客効果があるよな。どちらがお金を払うのかな」。何の気なく目にしてきた物事の裏に、ものすごく興味深いお金の動きがあった。

では、こうして得た球団の収入はどうやって選手たちに分配されるのか。4月の大阪・摂南大の授業では、一般的な年俸の算出方法の一端まで紹介された。三上氏はおもむろに過去の統計を持ち出し、各イニング終了後の得点差と、その状況での勝率を示した表をプロジェクターに映し出す。「同点の場面でも、一回に取る1点と、九回に勝ち越す1点で価値が変わるでしょ。九回に1点リードした方が勝率は高いのだから。給料は勝利への貢献度で決まります」

どこで打ったのか、どこで抑えたのか。単なる打率や防御率よりも、さらに細分化されたさまざまな局面での働きを数値化したデータに基づき、シビアな計算がなされている。プロの世界は、やはり厳しい。

岩田 朋宏(いわた・ともひろ)1989年生まれ。東京都出身。2013年共同通信入社。大阪社会部での警察・行政担当を経て14年12月から大阪運動部に。現在はプロ野球の遊軍を務めている。

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本コラムは8月12日、19日を休載し、26日から再開します。