25メートルを大きく超える距離からの一撃でも、「ミドルシュート」と表現してしまうテレビ、新聞も含めた日本のメディア。この国には「ロングシュート」はないのかと日頃から疑問に思っている。それでも、これはさすがにロングシュートだろう。

3カ月ぶりに再開したアジアチャンピオンズリーグ(ACL)。25日に行われた準々決勝第1戦の柏対広州恒大で素晴らしいゴールが生まれた。Jリーグではなかなか目にすることのない、胸のすくようなロングレンジからのキャノン砲。テクニカルなシュートはうまいと思わせるが、豪快な一撃は単純に気持ちが晴れる。相手GKと余計な駆け引きのない、真っ向勝負の潔さがあるからだろう。

前半40分だった。中盤の相手選手に対し、トップのポジションから守備に戻った柏の武富孝介がファウル。そこに歩み寄りボールをセットしたのが、6月にイングランド・プレミアリーグのトットナムから広州に加入したMFパウリーニョだった。

ゴールまでは35メートル以上。Jリーグでは、この距離から直接狙う選手はほとんどいない。そんな経験則がGK菅野孝憲の判断を鈍らせたのかもしれない。だが、対峙しているのはアジアの選手ではなく、昨年のW杯ブラジル大会で6試合に出場した元ブラジル代表のボランチ。一瞬、世界レベルの空間がACLのなかに広がっていた。

普段はセットプレーのキッカーではないという。そのパウリーニョの右足インステップでの渾身のキックは、いわゆる「芯を食った」状態でボールにめり込んだ。回転がついていないボールは空気抵抗をまともに受けて、予想外の軌道をとる。蹴った直後に菅野の正面に向かったと思われたボール。それはブレ球となり右側に切れ、これ以上ないというコースでサイドネットに突き刺さった。

「人生で初めて」というコメントには、ブラジル代表にまで上り詰めた選手が本当かなとは思うが、「生涯で一番のゴール」というのは確かだろう。それほどにすごみのある、印象に残る一発だった。

試合を振り返れば、このパウリーニョの2点目が試合を決めたといえるだろう。確かに柏からすれば不運もあった。開始5分に相手FKを鈴木大輔がオウンゴール。その早い失点が広州に余裕を与えたことも事実だろう。

結果的にホームの柏が1―3の敗戦。ボール保持率は互角なのだが、両チームのゴールに迫る意識が違う。それもあり、柏の前半はシュート数ゼロ。後半16分に2013年ブラジル全国選手権の得点王エデルソンを投入したことで、シュートを放つ場面を作り出せるようになった。しかし、切り札の投入はすでに3点差を付けられた状況。そこで新外国人に何とかしてくれといっても、それは酷な要求だった。

広州で9月15日に行われる第2戦。柏が準決勝に進むためには、3点以上を取った上で2点差以上を付けて勝たなければいけない。しかも、相手が100億円以上の補強費をかけている2年前のアジア王者ということを考えれば、かなり難しい作業だろう。

試合後、敗戦を受けた柏選手のコメントでとても気になることがあった。この日、柏は後半13分のガオ・リンに許したヘディングシュートも含め、3失点すべてをセットプレー絡みで失った。それに対しDFのある選手は「流れの中で失点したわけじゃないですから」と語っていた。この「流れの中からじゃないから」というフレーズは、日本サッカー全体に蔓延している悪い言葉だと思う。

セットプレーからの失点なら修正できるとでも言いたげなこの発言。しかし、現代サッカーでは3分の1近くのゴールがセットプレーに関連して生まれている。10年のW杯南アフリカ大会で2度目の指揮となった岡田武史監督が率いた日本代表は、W杯を含めた全13試合を戦い19得点。そのうちの9点がセットプレー絡みの得点だ。実に47・4パーセントになる。そのような得点パターンでもW杯16強入りができるのだ。

この現実を踏まえれば、日本のDFはセットプレーに対しての見方を変えなければならないだろう。1点を失うことの重さは変わらないということを。よく、「ごっつあん」ゴールでも「1点は1点」という貪欲な点取り屋がいる。それと同じように「1失点は1失点」という自らに厳しい意識をすべてのDFに植え付けていかなければ、日本サッカーの先行きは暗い。

どうもこの国の選手たちは、逃げ道の語彙だけは豊富な気がする。それが各選手に“徹底されている"のは、日常的に指導者がそのような言葉を使っているからだろうか。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。