90分間全体では、両チームの出来に大きな違いはない。ただ、一場面を切り取ると、片方のチームだけに好要素が数多く整っている。俗にいう「ハマった」試合とは、このような条件の下に生まれるのだろう。

J1第2ステージ第7節のFC東京対G大阪。この試合は、FC東京側から見るとまさに「ハマった」試合だった。

前半15分、右サイドからネーサン・バーンズが仕掛け、そのクロスを米本拓司がゴール前で合わせた先制点。本来はゴール前に顔を出すことの少ないボランチの米本が、ペナルティーエリア内に入り込んだのには訳があった。負傷したセンターフォワードの前田遼一がピッチ外で治療を受けていたことで、スペースが空いていたのだ。

さらに後半13分の決勝点。米本のパスを受けた右サイドの羽生直剛のクロスを、バーンズがヘディングでたたき込んだカウンターからの得点も、マッチアップに恵まれた。

自陣からドリブルで爆走した米本をマークする形となったのが守備に淡泊な宇佐美貴史。「追いかけてきたのが今野(泰幸)さんだったら、ボールをはたいていた」と米本は振り返ったが、宇佐美は途中で追走を中止。フリーでパスが出せる状況だった。

2―1でFC東京が勝利を収めた試合。「ハマる」試合は、味方にとってプラスに働く要素で局面が演出される。米本の攻めを促した前田の負傷といい、宇佐美の緩い守備。それを考えれば、サッカーは計算の上で試合が運ばれているように思えるが、勝敗を左右する瞬間には偶然が関わることも多い。

そのような中、試合で起こり得る偶然を極力排除し、必然のなかでプレーすることを追求するポジションがある。それがGKだ。そして優れたGKというのは、意図的に必然の状態のパーセンテージを上げられる。その意味でG大阪戦の榎本達也は、見事な活躍を見せた。影のMVPだ。

レギュラーで日本代表の権田修一がオーバートレーニング症候群で戦列を離れてから2試合目。36歳となったベテランのプレーを見ていると、「GKはワインのように年齢を重ねて熟成する」という元西ドイツ代表の名GKゼップ・マイヤーの言葉を思い出した。

この日、FC東京の本拠、味の素スタジアムは試合直前から豪雨に見舞われた。状況を見て榎本は「スリッピーだからポジショニングとキャッチングを意識した」という。

ぬれた芝生ではワンバウンド目が伸びる。その効果を狙って、立ち上がり直後に宇佐美がミドルレンジから2本のシュートを放った。榎本は序盤で相手エースの意図を読み切ったのだろう。味方に対しての的確なコーチングで守備網を築き、シュートコースを限定させた。空いているコースは榎本にとっての「必然」。正しいポジションさえとっていれば、ボールは自らの正面に飛ぶのだ。

宇佐美に放たれた6本のシュート。そのうち前半19分こそペナルティーエリアに侵入されたが、ダイレクトシュートにも見事に反応した。ペナルティーエリア外から打たれた他のシュートは、ファンブルさえ起こさなければ失点の可能性は少なかった。

正しいポジショニングを取れるGKに、派手なダイブはほぼ必要ない。そして、基本に忠実なGKはストレート系のシュートに対してはゴールマウスのほぼ全面をカバーしている。唯一、届かないのはいわゆる「巻いてくる」シュート。横に振られて動かされる場合とともに、これがGKの泣き所だ。

190センチと長身で、リーチのあるGKが的確にコースを消している。対戦するG大阪から見れば、榎本は厄介な存在だっただろう。狙えるシュートコースは、ゴール枠ギリギリに限定される。後半30分にG大阪は左サイドから倉田秋が右ポストを直撃するシュートを放った。しかし、この試合でポストに当たることは「必然」。そう思わせるほどに榎本の「コース消し」は見事だった。

「緊張はしなかった」。J1で220試合以上も出場しているのだから当然なのだろうが、ベテランならではの余裕を見せた榎本。さらりと「本当に練習でやっていることを出しているだけですよ」と続けた。

だが、練習通りのプレーを試合で発揮するのはかなり難しい。JリーグのほとんどのGKはそれができていないのではないだろうか。もし、できているというのならJリーグは、GKコーチに問題を抱えるチームがかなり多く存在することになる。ベテランGKの安定したプレーを見てそう思った。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。