勝負への厳しい姿勢が胸を打った。サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」は、2連覇を目指した女子ワールドカップ(W杯)カナダ大会を準優勝で終えた。帰国直後の報告記者会見。宮間あや(岡山湯郷)に「連覇こそ逃したが、代わりに得たものはあったか」との質問が投げかけられた。準優勝を祝うようなムードが満ちた会見場に響いた主将の返答は「一番欲しかったW杯を手にすることができなかったので、代わりになるものは何もない」。卑屈さはなく、自然な口調だっただけに潔さが際立った。勝負師の誇りも感じられ、周囲と同じように健闘をたたえる気持ちで聞いていた記者が「甘い」と戒められたような気さえした。

質問には、ロンドン五輪と2度のW杯の3大会連続で決勝に進出して得た自信や、チームの団結を示す美談を引きだそうという意図があったように思う。主将の答えは、全く逆だった。「日本のスタイルは通用した」、「内容はよかった」というような言い訳がましい言葉は一切なし。「やるべきことは全力でやった」という思いも明かしているが、一方で並々ならぬ結果へのこだわりがあった。この勝負への執着があったからこそ、下馬評を覆す決勝進出につながったのだろう。

宮間だけが特別なのではない。記者会見後に取材に応じた他の選手からも「優勝と2位は全く違う」という言葉が次々と聞かれた。準決勝でイングランドを退けて決勝進出を決めた直後には、川澄奈穂美(INAC神戸)が「ほっとした」と語っていたのを思い出す。普段は男子代表を取材する身からすれば、これも驚きだ。男子なら胸をなで下ろすどころか、お祭り騒ぎの快進撃だ。競技人口や大会の歴史が違う男女の単純比較に意味はないと知りつつ、なでしこほど地に足を着けて世界の頂点に挑めるサッカーチームは日本にはないとあらためて感じた。女子には金メダル以外は評価されない、と自らを追い込んで五輪に臨む柔道家のような勝者のメンタリティーが備わっているのではないか。

前回王者として警戒された中でしぶとく勝ち上がった戦いぶりにも「結果が全て」という割り切りが見て取れた。決勝までの6戦は全て1点差の勝利。1次リーグは選手の疲弊を最小限に抑えるかのように毎回メンバーを変え、内容がよくないながらも勝ち点を積み重ねた。決勝トーナメントに入ると主力を固定。ギアを一段階上げて、小気味よいパス回しが復活するなど内容も上向いた。優勝までの道のりを知るからこそできる芸当で、男子で言えばブラジル代表のような強豪の戦いぶりだ。組み合わせに恵まれた面もあるが、振り返ってみれば2―5で敗れた決勝以外は地力の差を感じさせた。

ただ、この勝負へのこだわりには切ない背景もある。結果を出さなければ世間に忘れられるという切迫感だ。大会MVP候補になった有吉佐織(日テレ)らは働きながらプレーを続けており、育成環境も十分とは言えない。なでしこリーグの平均観客数はW杯で初優勝した2011年、前年比3倍の2796人に増えたが、今季はピークからほぼ半減した。熱しやすく冷めやすい現状を変えたいと、宮間は大会中から「女子サッカーを文化にしたい」と繰り返してきた。帰国時も「結果を出し続けなければすぐに皆さんが離れていってしまうのではないかという不安を抱えながら戦っている。そういう不安を感じなくなったら文化になったと言えるのではないか」と吐露している。

大きな大会の結果に一喜一憂せず、後進が安心して競技に臨める環境を築きたいという願いは以前から引き継がれてきたものだ。なでしこOGの大竹七未さんは「私も先輩から『代表が活躍して結果を残さないと日本の中から女子サッカーが忘れられる』とずっと言われてきた。今の選手たちも、自分のためだけでなく、今後の女子サッカーを背負って戦っている」と語っている。

悲壮な思いでタイトルを目指す選手の活躍を、環境改善につなげられるか。日本サッカー協会の野田朱美女子委員長は「このともしびを消さないよう、私も責任を持って女子サッカーの発展、普及につなげたい。選手の涙を無駄にしないようしっかり考えていく」と約束した。今度は周囲がなでしこの奮闘に応える結果を見せる番だろう。

出嶋 剛(でじま・たけし)1980年生まれ、佐賀市出身。スポーツ紙で8年間勤務し、2011年7月に共同通信に入社、大相撲とボクシングなどを担当し、13年からはW杯ブラジル大会などサッカーを主に取材。