ピッチに立つ11人の選手。中でも、勝敗により影響を与えるポジションは、ストライカーとGKだろう。スコアを動かす選手と、スコアが動くことを阻止する選手。リオネル・メッシ(バルセロナ)やクリスティアノ・ロナルド(レアル・マドリード)のような1試合に1点取ってくれるストライカーと、1試合に何点かを防いでくれるマヌエル・ノイアー(バイエルン・ミュンヘン)のようなGKは、どんな監督でも手に入れたいだろう。

ただ、メッシとロナウドは、歴史上初めて出現した怪物だ。「1試合に1点」。ストライカーがよく口にする言葉だが、近代サッカーのトップレベルでそれを成し遂げた選手は、彼ら以前には存在しなかった。ペレやディエゴ・マラドーナといった偉大な選手でも成し遂げられなかったことを、メッシらは日常的にやっているのだ。そんな「宇宙人的」選手は、サラリーも天文学的で獲得は難しい。

となれば、チーム強化には―ノイアーとまではいかなくても―優れたGKを獲得する方がより現実的だ。1試合に確実に1点を防いでくれるGKがいれば、チームは安定して勝ち点を稼ぐことができるからだ。

プロレベルで1試合に1点を挙げるストライカー。そのような点取り屋を育てるのは、奇跡的な巡り合わせでもなければ無理だろう。ただ、数度ある絶望的な危機を一度でも安堵に変えられるGKの育成は可能なのではないだろうか。1点を取るのと、1点を防ぐのは同等の価値を持つ。そう考えると、優れたGKを育てなければと思うのは普通だろう。

ところが、日本の現状はGKを重視しているとはとても思えない。育成年代での指導者の少なさも関係しているのだろうが、日本のGKのレベルはW杯出場国というレベルで見ると相対的に低い。事実、Jリーグでも「プロにしてこのレベルなの」と目を疑うようなプレーがしばしば起こっている。

派手なセービングはいらない。正しいポジションに構えていれば、たいがいのシュートを正面で処理することができるからだ。ところがJリーガーでも、正しい位置にポジショニングできないGKが結構いるのだ。

25日のJ1第2ステージ第4節の川崎対清水。この試合では両チームのGKのまずいプレーが失点につながった。開始11分、川崎は大久保嘉人のシュートで先制点を奪ったのだが、清水のGK杉山力裕のポジショニングは明らかにミスだった。ニアポストに寄り過ぎていたのだ。結果、空いたファーサイドを打ち抜かれたのだが、手をはじかれたことを考えると、正しいポジションにいれば、楽々と処理できた場面だった。

一方、川崎の新井章太も安定感に欠ける。「弾け」。そう指導されているのかもしれないが、簡単なボールでもキャッチせずにパンチングしてしまう。この試合でも前半30分にイージーボールをキャッチせずに弾いてCKに。そのCKからゴールを許したのだから、間違いなく失点の責任はあるだろう。

第4節では神戸の山本海人がびっくりするようなミスで先制点を献上した。テレビの解説者は得点したG大阪の遠藤保仁のシュートを褒めていたが、これは単純にしてお粗末なGKのミス。第5節でも、柏の桐畑和繁が飛び出しの判断ミスとバックパスを触ることすらできないという素人が見ても明らかに分かる大きなミスを犯し、湘南に2点を献上した。神戸、柏とも敗れたことを考えると、JリーグはGKの出来で勝敗が決まる試合が予想以上に多い。この現実を各チームのGKコーチはどう捉えているかを聞きたいものだ。

日本が世界と戦う中で、不可欠なGKのレベルアップ。その実現には、指導現場の底上げに加えて、周囲の目がGKというポジションに対してもう少し厳しくならなければいけないのではないだろうか。

それを考えれば、この国のメディアはGKに対して優し過ぎる。だから簡単に「スーパーセーブ」という文字が躍る。しかし、スーパーセーブは、スーパーの安売りのように日常的なものではない。めったにお目にかかれないからこそ、スーパーなのだ。その意味で2004年アジア・カップ準々決勝のヨルダン戦で見せた川口能活のPKセーブは、真にスーパーだったといえるのだが。

シュートをセーブすれば、それがすべて好プレーな訳ではない。なぜなら、GKはシュートをセーブするために日々、鍛錬しているからだ。そして、そのセーブは“当たり前"であることのほうが多い。そういえば、ドイツの名手オリバー・カーンは以前、美技を連発した試合でこう語った。

「これが俺の仕事だからね」

日本のGKからも、早くこの言葉を聞いてみたい。それには現在の日本代表選手のレベルが、JリーグでプレーするGKのアベレージにならなければいけないだろう。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。