確かに性別の違いこそある。それでも、私たち日本人はいままで味わったことのない幸福感のなかに身を置いているのではないだろうか。男子でいえばブラジルやドイツといった、世界でも一握りのサッカー大国。その国民たちが、ビッグトーナメントの度に享受できる誇らしげな感覚。素晴らしい代表チームを持ち、それが大会を勝ち進む。勝利という結果を当然のごとく受け入れられるというのは、なんと贅沢なことだろうか。

「なでしこジャパン」というチームを持つ、この国の一員であることを純粋に喜びに思う。そう感じている人も多いはずだ。

日本時間2日朝にあったサッカー女子W杯カナダ大会の準決勝。日本は後半ロスタイムの相手オウンゴールでイングランドに何とか競り勝ち、決勝進出を決めた。世界大会では、2011年のW杯ドイツ大会、12年ロンドン五輪に続く、3大会連続のファイナリストだ。その安定した成績は、特筆されるものだろう。

世界のスポーツ史を見れば、憎たらしいほどの圧倒的強さを見せたチームはあっただろう。ただ、それだけでは伝わってこないプラスアルファを、このチームは持っている。

4年前のドイツ大会。東日本大震災で悲嘆にくれる日本に奇跡的な優勝で勇気を与えてくれたのは、彼女たちの諦めない姿だった。

翌年のロンドン五輪。残念ながら決勝戦で敗れ準優勝に終わったが、表彰式で見せた爽やかな笑顔は、その戦いぶりとともに世界の多くの人々の共感を誘った。

そして今回のカナダ大会。ロンドン五輪後、少し力が衰えてきたかなと思われていたチームだったが、その不安を覆す危なげない戦いぶりを披露。それはまるで「大人のサッカーはこうなのよ」と諭すような説得力がある。その意味でなでしこのサッカーは、常に人の心に響いてくるのだ。

準決勝まで6試合を、参加全チーム中、唯一の全勝。そのすべてが1点差勝ちだが、内容的には浮き沈みあった。それでも、結果を常に出しているというのは正直にすごい。それは佐々木則夫監督の卓越したチームマネジメントによるところが大きいのだろう。

ターンオーバー制を敷いたグループリーグ。日本はGK3人も含めた登録メンバー23人のすべてを起用した。対戦した3チームのすべてが、W杯初出場国と組み合わせには恵まれた。しかし、タイトルを取りにいく本大会で、こんな大胆な選手起用を行える監督はそうそういるものではない。

一方で選手側からすれば、わずかでもピッチに立つことで「自分はチームの一員」という意識を強く持つ。監督から気に掛けられているということを意識すれば、日常の練習の質も上がる。それは結果的にチームの結束を高め、戦闘力を上げることにつながる。

マスコミとの応対でも、常に「彼女たち」を主役に、自分は一歩引いた柔らかな口調で選手を立てる。佐々木監督と選手たちの間には、理想的な信頼関係が築かれていることが垣間見える。ただ、その信頼関係の根底に流れているものが、監督の厳しい要求に対して選手がそれを妥協なくこなす。そういう意識の高さがあるからだろう。

時間帯によっては不安定なプレー見せた1次リーグとは一変し、決勝トーナメントに入ったなでしこジャパンの戦いぶりには、一分のすきもなかった。2―1で勝利した1回戦のオランダ戦。そして、1―0のスコア以上に、実力差を見せつけて完勝した準々決勝のオーストラリア戦。オランダ戦こそ、ミスによる失点があったが、負ける要素はほとんどなかった。

サッカーでは、1点という最小得点差に限りない開きが存在する場合もある。その好例が10年のW杯南アフリカ大会で初の世界王者に輝いたスペインだった。決勝トーナメントに入って4試合。勝利を収めたスペインのスコアは、すべて1-0だった。しかし、その内容は誰もがスペイン圧勝の印象を覚える内容だった。

なでしこジャパンの現在の戦いぶりを見ていると、その姿がなんとなく重なって見える。そういえばバルセロナの選手が中核となったスペイン代表は、2度の欧州選手権(08、12年)と、その間に開催されたW杯で優勝を飾った。なでしこは2度のW杯(11、15年)と、惜しくも銀メダルではあったが12年のロンドン五輪で大活躍を見せる。とても似ている。そういえばこのチームは、「女性版バルセロナ」と呼ばれていたことを思い出した。ビッグトーナメント3大会連続のファイナル進出はなった。女子では史上2国目のW杯連覇に期待したい。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。