このところ、日本では建築予算が2500億円を超える国立競技場の建て替え問題が連日報じられている。要約すれば、いくらオリンピックだからといっても風呂敷が大きくなり過ぎたことと、東京都に負担を求める国の姿勢などに疑問が湧いているからだ。

この手の巨額なお金の話は、F1でも近年問題になりつつある。国際自動車連盟(FIA)は先日、2016年F1シーズンの暫定スケジュールを発表した。それによると、来シーズンは過去最多となる全21戦。豊富な油田資源を持つアゼルバイジャンのバクーで初開催されるほか、財政難などを理由に今季は中止となったドイツが復活した。

過去最多の全21戦には驚くばかりだ。日本でのF1ブームを生むきっかけとなった1987年シーズンは全16戦。内訳は、ヨーロッパ圏で11レース、北米と南米で3レース、アジア・太平洋地域で2レースと、7割以上がヨーロッパ圏での開催だった。一方、来季の暫定スケジュールは、ヨーロッパ圏で10レース、中東2レース、北米と南米で4レース、アジア・太平洋地域5レースと、ヨーロッパ圏での開催は半分にも満たなくなっている。

米経済誌フォーブスは先月、マレーシアGPが加わり拡大路線に入ったとされる99年から2013年までの15年間で、F1が総額162億ドル(約2兆円)を稼いだと報道した。ちなみに、サッカーのワールドカップ(W杯)が同時期に稼いだのは145億ドルだった。

しかし、F1の地域拡大策とは裏腹にその人気は近年下降している。理由の一つが、ファンが多いヨーロッパ圏のレースを減らし、地元の人気はほとんどないのに高額な開催料を支払うだけのGPが増えたことだ。このようなGPの多くでは、サーキットこそ豪華さを誇るものの、空席ばかりが目立つという残念な結果を生んできた。F1の開催料がどれほど高騰しているかは、7年間のF1開催契約の途中で破産状態となった韓国GPとFOM(フォーミュラ・ワン・マネジメント)との争いで明らかになっていて、2012年の開催料は4370万ドル(約54億6000万円)にもなったという。

こうした状況を打開すべく、今年動いたのが、英国出身のルイス・ハミルトン(メルセデス)人気で12万枚強のチケットがほぼ完売した英国GPだ。とはいえ、チケットが完売した理由はハミルトン人気に加え、チケット価格を一気に下げたことが大きい。親子で行くチケットなども販売するなどチケットのバリエーションも増やしたのだ。

この英国GPの成功をみて、F1側もこれまでの考えを変えていくのか。ハミルトンとニコ・ロズベルク(ドイツ)のメルセデス両ドライバーがチャンピオンを激しく争う中、F1もまた近い将来に向けた戦いを静かにスタートしているのであった。(モータージャーナリスト・田口浩次)