たとえ勝利を収めたとしても、失点を喫すると後味が悪い。極端な話をすれば、失点するぐらいなら、まだ0-0の引き分けのほうが精神衛生上はすっきりとする。GKやDFの中には、そういう考え方をする選手が結構いる。それを思えば、今シーズンのJ1鹿島の守備陣は、さぞかし苦しい時期を過ごしたのだろうと思う。

5日のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)FCソウル戦まで、Jリーグを含め消化した公式戦15試合のすべてに失点していた鹿島が、10日のJ1第11節FC東京戦を1−0で勝利。不名誉な記録をようやくストップさせた。

海外への移籍がうわさされる武藤嘉紀の効果だろうか、FC東京の本拠地・味の素スタジアムは第9節に続き4万2000人を超える大観衆。最高の雰囲気で始まった試合は、両チームともに「まず守備から」の意識が高く、緊迫した試合になった。

鹿島守備陣からすれば、FC東京で最も危険な存在となるのが武藤。スペースを与えれば、スピードに乗った勝負するドリブルで独力でもシュートに持ち込む。ただ、この日の鹿島守備陣の集中力は高かった。武藤にボールが渡りそうになるとファン・ソッコ、昌子源のセンターバックを含めた守備陣が素早く対応。特に前半は、柴崎岳が「流れの中でのチャンスは作らせなかった」というように、ほぼ完璧な守備を見せた。

そのような中、主導権を握っていた鹿島は前半34分に先制点を挙げる。左サイドから山本脩斗がゴール前に入れたクロス。赤崎秀平がFC東京の森重真人と競り合ってこぼれたボールにいち早く反応したのが土居聖真だった。

決して簡単なシュートではなかった。ゴール正面から見て右寄り。軸足をファーサイドに向けて、思い切り体をひねった土居の右足シュートは、スピードこそなかったが絶妙のコースを射抜き、サイドネットに転がり込んだ。

前半はFC東京のシュートを1本に抑え、トニーニョ・セレーゾ監督も「見ていて楽しかった」というほどの、鹿島にとっては理想的な展開。しかし、後半は一転してFC東京の流れとなった。その多くのチャンスを作り出したのが、太田宏介の左足だった。

どんなに美しい崩しを見せて決めたゴールでも、スコアが動くのは「1」だけ。それを考えれば同じ「1」をいとも簡単に生みだすことのできるセットプレーのスペシャリストがいれば、サッカーは簡単だ。その意味で日本でも屈指の左足のキックの精度を持つ太田の存在は、FC東京からすれば攻撃面では武藤と同等の価値があるといえよう。そして後半は、その太田の9本のCKが鹿島ゴールを襲った。

太田のキックを生かすターゲットとなったのは後半から投入された長身の2人、高橋秀人と前田遼一だった。後半30分には太田の右CKをニアの高橋がヘッドで流し森重がバーを直撃するヘッド。同じく35分の右CKではニアで前田が流し、ファーにいた東慶悟が押し込んだかに見えたが、これはハンドでノーゴール。後半43分にも右CKから前田がヘッドで合わせ、あわやの場面を作り続けた。

流れのなかではやられていないのに、冷や冷やの展開。鹿島の選手たちは大きなストレスを感じていだだろう。なぜなら今シーズンの失点の多くがセットプレー絡み。悪いイメージというのは、どうしても脳裏に焼き付いているものだ。CK時の守備をマンツーマンからゾーンに変えたのもわずか2日前。不慣れな部分もあった。それでもこの日の鹿島には運があった。

FC東京の武藤が「1点が入っていれば逆転できる展開だった」と語っていたが、そのような予感は確かにあった。それでもゴールを許さず、今シーズンの初完封という事実は、鹿島の選手たちにとっては大きな自信となったはずだ。

普段から長話のトニーニョ・セレーゾ監督の記者会見での饒舌が止まらない。この完封勝利はそれほどに価値があったのだろう。そしてGK祖曽ケ端準を筆頭に鹿島の守備陣は、やっと心穏やかに眠りにつけるだろう。

これで鹿島は他チームより1試合消化の少ないなかでの暫定9位。首位浦和レッズとの勝ち点差は10。この後、浦和との直接対決も含め上位との対戦を残していることを考えると、J1の優勝レースの鍵を握る存在であることは間違いない。確かにACLという目標は失った。ただそれを、リーグに集中できるとポジティブにとらえれば、鹿島にとってそれは決して悪いことではない。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。