東京六大学野球リーグの東大が長いトンネルから抜け出せないでいる。2010年秋に早大から勝ったのを最後に連敗が続き、今月19日の早大戦で敗れ90連敗となった。このまま止まらなければ、今年の秋に「100」の大台に乗ってしまう。

実は、私は15年ほど前に東大で投手をしていた。記者のコラムというより、OBの私的な思いの吐露になってしまうかもしれないが、この場を借りて後輩にアドバイスを送りたい。

現在の選手たちが、東大の歴史の中で特に力が劣っているわけではないと思う。だが、これだけ勝ちから遠ざかってしまった影響はやはり大きい。最後の白星は5年前で、今のメンバーは勝った経験がない選手ばかりだ。勝機が見えた試合を一発でものにするのは難しいだろう。まずは終盤までもつれる展開に頻繁に持ち込めるようになってほしい。そういう試合を繰り返すうちに、チャンスが出てくると思う。

数字を気にする必要はない。何しろ入学前の負けも含まれている記録だ。自分が関与していない敗戦に負うべき責任はない。全て同じ1敗であって、100敗目が1敗目より重いわけでもなければ、1敗目は100敗目ほど深く受け止めなくてよい、というものでもない。どの負けもきちんと反省し、どの試合でも同じように最善を尽くすべきだ。「100」が近づくにつれて話題に上ることも増え、難しいとは思うけれど。

ちょっと先輩面をしてしまったが、かくいう私自身、偉そうなことを言えるような選手ではなかった。何度も情けない試合をしたし、アウトが取れずに降板してその後は出番をもらえず、防御率が算出できなかったシーズンもあった。言ってみれば東大の中でも平凡な投手だ。

東大へ進学した理由を聞かれ「野球がやりたかったので」と答えると「変わったやつだな」という反応をされることが多いが、東大野球部の選手のほとんどは「東大で野球をする」という明確な目標を持って受験を乗り越えてくる。今もそれは変わっていないと思う。甲子園で鳴らした他校の選手たちと神宮球場という舞台で対戦できる東京六大学は、それほど魅力的な存在だ。苦しいときほど、その原点を思い出してほしい。

負けが込んでいるのは今に始まった話ではない。どの時代でも圧倒的に負けが多かったし、常に相手が格上だった。そんなことは承知の上で東大野球部の門を叩いたはずだ。投手であれば、ピンチの場面ほど「望むところ」だ。厳しい局面でプロに進むような好打者と勝負するという状況こそが、まさに求めていたものと言ってもよいぐらいだろう。実際には難しいが、そう開き直れれば追い込まれた状況でも自分の力をきちんと出せると思う。もちろんベストを尽くした上ではね返されることもたくさんあるはずだが、マイナス思考に陥らずに持っている力を出し切るということを続けていく先に、勝利があるはずだ。

手前みそで恐縮だが、大した投手ではなかった私も4年の秋の最後のシーズンに一つ勝つことができた。直前の春まではリーグ戦で先発したことさえなく、秋に勝つなんて誰も思っていなかっただろう。勝負事では、防御率無限大というていたらくだった投手が勝つなんてことも起こりうるのだ。チャンスは必ずある。

神宮で勝つ喜びは何物にも替え難い。結果が出ずに苦しんでいる選手たちにも、温かい後押しをくれる応援団(東大では応援部と言う)の方たちにも、早くその喜びを味わってほしいと切に願っている。長く苦しんだ分だけ、注目も高くなっている。勝ったら新聞の1面ですよ!

児矢野雄介(こやの・ゆうすけ)1979年生まれ。98年に東大入学。東京六大学では通算1勝5敗。2003年に共同通信社に入社し、高知支局を経て05年から運動部。主にプロ野球を担当。

★★★本欄は1週休載し5月13日付から再開します★★★