日本以外のリーグというのは、強豪と言われるチームと、そうでないチームのすみ分けがはっきりしていることが割と多い。それと比べれば、Jリーグはかなり特殊だ。昨シーズン、J2から昇格したばかりのG大阪が3冠を達成したことが好例だろう。

その混沌としたリーグは、今季も健在だ。第4節では神戸、第5節では名古屋と、その時点での最下位チームに連敗した広島が、第6節で10年ぶりに首位に立ったFC東京に2―1と見事な勝利を収めた。第3節でもその時点での首位だった浦和に0―0の引き分けだから「強い者に強く、弱い者に弱い」という不思議な状況が起きている。これではサッカーくじを当てるのも一苦労だ。

開始30数秒で武藤嘉紀に先制点を許し、いきなり足枷をはめられた。ただ、この試合における広島の戦いぶりは見事だった。攻撃と守備の切り替えの意識が徹底されていた。守るときには一度守備ブロックを下げ、FC東京が誇るスピード豊かな2トップの武藤と石川直宏にスペースを与えない。

攻撃時にもFC東京の持ち味である前線からのプレスを巧みにいなし、チャンスをうかがう。両翼からの崩しが基本となるのだが、このチームには一発の縦パスでDFラインの裏を取ることにかけては日本随一のマエストロ・佐藤寿人がいる。徐々に試合の流れを引き寄せたのも、当然といえば当然だった。

同点ゴールも見事なサイドからの崩しだった。前半11分に右サイドのドウグラスが米本拓司と高橋秀人のチャージをはじき飛ばし、ゴール中央に丁寧なパス。そこに走り込んだ柴崎晃誠が右足でダイレクトに合わせGK権田修一の頭上を破った。サッカー教本に載っているような理想的なゴールだった。

何よりこの日の広島が素晴らしかったのは、自分たちの心をうまくコントロールしたことだろう。前半15分に柴崎がペナルティーエリア内でFC東京の森重真人に倒されたプレーはPKの判定でもおかしくなかった。しかし、山本雄大主審の判定はノーファウル。

さらに19分には、柏好文が左サイドのいわゆる「デルピエロ・ゾーン」から右足でファーポスト際にカーブを掛けたビューティフル・ゴールを流し込んだかに見えた。

確かにオフサイド・ポジションにドウグラスがいたが、通常はゴールを認められることの多いロングレンジからのシュートに対しても判定はオフサイド。この二つの広島側からすれば納得のいかない判定があっても、選手たちは心を乱さなかった。それが後半37分の決勝点につながった。

「前向きでボールを持ったんで仕掛けようと思った」

値千金のゴールを挙げたのは、後半27分にエースの佐藤に代わり投入された20歳の浅野拓磨だった。交代から10分後、センターサークル付近でボールを持った浅野はズルズルと下がるFC東京の3人のDFに対し、正面からドリブルを突っかけた。最後は、急激な切り返しで森重、吉本一謙のタックルを右に外し、ニアサイドに強烈なシュートをたたき込んだ。前日まで発熱していたというが、「そういうときに限って点が入る」という3年目にしてのうれしいJリーグ初ゴール。この得点が結果として不可解な判定の多かった試合を正当なものとした。

確かにこの試合は広島側だけではなく、FC東京側から見ても疑問の残る判定が多かった。判定にバラツキが多いと誰の目にも映ったのではないだろうか。そのなかでほとんど記者が立ち去ったあとに森保一監督は「一緒に仕事をしている仲間だから、レフェリーだけを悪く言うつもりはない」と前置きした上で本音を漏らした。それは前半15分に柴崎が倒された場面についてだった。

「もしあれがPKを取らないんであれば、柴崎はイエローカード。シミュレーションとして取られるはずだ」

森保監督の意見は理にかなっている。

日本サッカーの底上げ。日本代表のハリルホジッチ監督の言葉ではないが、そこには選手だけではなく国際基準に合った審判のレフェリング技術の向上も間違いなく含まれている。だからこそ90分という一つの試合を通して判定をまとめるのではなく、一つひとつのプレーに対して、より厳格さを持って対応することが不可欠になるはずだ。

「われわれは人生を懸けてやっている。一つのゴールで人生が変わる」

森保監督のその言葉を聞いて、普段は何げなく見ているJリーグが、ぎりぎりの精神状態で戦っている選手やスタッフの気持ちの上に成り立っているものだと、あらためて思い知らされた。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。