世界ボクシング協会(WBA)スーパーフェザー級チャンピオンの内山高志(ワタナベ)が、日本人で初めてWBAの「スーパー王者」に昇格した。世界タイトルの5連続や10連続防衛などの実績を残した者だけに与えられる名誉ある称号だが、これに伴って「正規王座」が空位となり新しいチャンピオンが生まれるという弊害が生まれる。WBAによる近年の“王者乱造"は目に余り、2010年からタイトルを9度防衛している内山自身も「評価していただいたことはうれしい。でも正直、複雑ですね」と本音を口にした。

他団体と比べてWBAで不可解なのは、とにかくチャンピオンが多いことだ。まず、ランキング1位の選手を「暫定王者」と認定しており、2月発表の最新ランキングではこれが17階級のうち11階級にいる。内山も2011年の大みそかに行われた4度目の防衛戦は相手がランク1位の暫定チャンピオンだったため、試合は「王座統一戦」と銘打たれた。だが、これに勝ってもすぐに新たな暫定王者が誕生し、1年後には別の相手と再び「統一戦」を行っている。

「正規」と「暫定」に加え、さらに格上の「スーパー」や他団体のベルトも持つ「統一(Unified)」「異議のない(Undisputed)」という肩書のチャンピオンもいる。バンタムなど5階級には現在3人の王者が同時に存在し、WBAの全17階級に総勢38人もの世界王者がいるのは異常だ。また、2012年の亀田興毅のように、チャンピオンが負傷で長期間試合ができない時には「休養王者」となることもある。

チャンピオンが増えればタイトルマッチが増えるため、選手やジム側にとっては世界挑戦のハードルが下がる利点がある。興行主はタイトル戦のたびにWBAに承認料を支払うため、WBAにもメリットが大きい。一般のファンにとって分かりにくいだけでなく、タイトルの価値も下がってしまうが、王者乱立の流れは止まらない。

実は、内山は2013年5月に7度目の防衛を果たした後、WBAからスーパー王者への昇格を打診された。この時は「別の正規王者ができてしまうのが嫌だった」(内山)と断った。そして今回、所属するジムの渡辺均会長によると「WBAから何の前触れもなく、突然『決まりました』というメールが来た」という。「既に決まっているという文書だったので、受けざるを得ないという考え。内山だったらスーパー王者にふさわしいし、海外での評価も高くなる」と前向きに受け止めた。

関係者やファンの間でWBAの評判が悪いのは言うまでもないが、内山は「その(団体の)中でも文句なしで強いと言われる選手にならないと駄目」と自らに言い聞かせる。今後はスーパー、正規、暫定という3人のチャンピオンが、それぞれのベルトを守り続けていくという不可解な状態が続く可能性もある。内山は「暫定は眼中にないけれど、正規がいるのは気に入らない。統一戦をやっていきたい」と、今後も増え続けるチャンピオンを“退治"していく覚悟だ。

田丸 英生(たまる・ひでお)1979年生まれ、東京都出身。共同通信名古屋、

大阪運動部を経て、09年12月から本社運動部。担当はサッカー、ボクシング、

自動車F1、相撲など。