はるか昔のことだが、心のときめきだけは覚えている。桜の開花を告げるニュースが流れる季節には、別れ、そして新たな出会いがある。故郷の開花は東京から1カ月遅れだったので、桜色の中での体験ではないのだが。

進級に伴うクラス分けでは、どのような人がいるのかが楽しみだった。サッカー部でも、どんなメンバーが入部してくるのか。「○×中学のあいつが入部してくるみたいだ」。そんな噂に期待を抱いたものだった。

奇しくも桜の季節に、日本代表も新たなチーム編成を行った。代表チームに限っては、年一回のクラス替えはまずいので、ハリルホジッチ監督のチームには、このまま2018年のロシアW杯まで突き進んでほしい。

ハリル・ジャパンのメンバー構成を見て、「この監督は、小さくまとまった選手よりも、荒削りだが一芸に突出した選手に可能性を見いだすタイプ」なのかなと思った。それは何でも器用にこなす優等生タイプを好んだザッケローニ監督と異なるところだ。

ロンドン五輪で世界を驚かせるスピードを見せた永井謙佑(名古屋)。日本人選手としては、突出した決定力を見せる宇佐美貴史(G大阪)。この2人は日本代表入りの待望論にもかかわらず、なかなか招集されることはなかった。“帯に短し、たすきに長し"という言葉に代表される、長所よりも先に短所に目がいってしまう日本的風潮のなかでは使いこなすのが難しい類の選手だからだろう。

ただ、日本代表が強豪にひと泡吹かせることを考えた場合には、アベレージの高い選手だけでは無理がある。確かに、ザッケローニ監督のチームも親善試合では、フランスやオランダ、ベルギーといった強敵を相手に素晴らしい試合をした。ところが、真剣勝負となると勝ち切れない。結果を求めるのが代表チーム最大の目的であることを考えれば、全体のレベルを底上げした上で、相手が驚くような武器を備えていなければ難しい。そんな段階に差し掛かっているのではないだろうか。

世界を舞台に目覚ましい活躍を見せる女子代表を除けば、ここ数年で日本が最も世界を驚かせたのがロンドン五輪だろう。優勝候補のスペインを初戦で破ってのベスト4。あの舞台でスペインを混乱に陥れた永井のスピードは間違いなくワールドクラスといえた。その武器を活かさない手(足?)はない。

もちろん、課題はある。フィニッシュの精度と、スペースのないときのプレーの質だ。アジアで対する相手は守備ラインの裏に空間を与えてくれない。その対処法を会得する必要があるだろう。とはいえ、相手が主導権を握る可能性の多いW杯ではスペースが生まれるだけに必ずそのスピードを活かせる。それを考えると、永井には3年後のロシアまでに日本代表で自分の足場を固めてほしい。

一方の宇佐美。攻撃の能力については、あらためて説明する必要はないだろう。相手DFの逆を突くうまさと、自分の型にはまったときのシュートの正確さ。23日の甲府戦で決めたペナルティーエリア外からの抑えを利かせた弾丸シュートは、シュートレンジの短い日本人選手では特筆すべきものがある。

それでも、ザッケローニ、アギーレの両監督は、この若き才能を招集しなかった。多くの人が疑問に持っていたことだろう。

以下の解釈が正しいかどうかは分からない。ただ僕が考えるには、宇佐美は「スポーツニュースの選手」だからではないのかと思う。得点場面をクローズアップするニュースでは、いいプレーの映像しか流されない。得点場面に絡む宇佐美の登場回数は、当然多くなる。しかし、90分という試合全体で見ていると、宇佐美は消えている時間が想像以上に長い。G大阪では守備の手抜きに多少は目を瞑ってくれるが、守備も求める監督から見れば物足りなさを感じていたのかもしれない。

とはいえ、がむしゃらに守備をすればいいわけでもない。攻撃時の体力を温存しなければいけないからだ。最大の武器である「攻」と、最低限の「守」のバランス。宇佐美にはその落としどころを見つけてもらいたい。

今回のハリル・ジャパンは、以前のチームとは特に攻撃のタレントの質が大きく変わった。前チームまでは、本当の点取り屋は岡崎慎司(マインツ)だけだった。その岡崎にしても、味方に使われるタイプだ。ところが見渡せば、永井、宇佐美に加え、武藤嘉紀(FC東京)という、独力で点取ることのできる選手が一気に増えた。

守備の大原則は「組織」。一方、攻撃はコンビネーションだけではどうしようもないことがある。その攻撃において、単騎で勝負を仕掛けられる選手が増えたことに大きな可能性を感じる。新学期を迎えたハリル・ジャパン。どんな個性を持ったクラスになるのだろうか。期待に胸はずませて見守っていこう。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。