昨年8月、メジャー3年目のレンジャーズのダルビッシュ有が右肘炎症で戦線離脱し、そのままシーズンを終えた時は「大事に至らずよかった」と思っていた。

ところが、これが思いのほか重傷で、再起を期して登板した今年3月5日のオープン戦で異変を感じ緊急降板。検査の結果、13日にはじん帯の再建手術(通称トミー・ジョン手術)を受ける決断をした。復帰までに12~15カ月かかるから今年の登板はなくなったことになる。

ダルビッシュに悲壮感はない。じん帯断裂ではなくじん帯損傷で手術をせず復帰を目指す選択肢もあったようだが、本人は「もし復帰して投げ続け断裂させたら、2シーズンを棒に振る可能性があり、そのリスクを回避したかった」と話している。

ダルビッシュに肘手術に対する恐怖心が薄いのは、今や米球界での手術が当たり前になっているからだ。

昨年以降にこうした手術を受けたメジャーリーガーは30人以上に上っている。違和感があれば早々と手術に踏み切っている例が後を絶たない。これまでに、手術後に活躍して殿堂入りした投手も多くいる。

▽日本人第1号は村田兆治投手

スポーツ医学の発達はめざましいものがある。昔なら選手の体にメスを入れるとしたら、アキレス腱断裂などの場合に限られていて、投手は肩、肘を壊せば即引退だった。

日本人選手で最初にトミー・ジョン手術を受けたのは今からおよそ30年前(1983年)のロッテ・村田兆治氏。村田氏には当時、巨人移籍の話が噂されていて、その取材に駆け回った記憶がある。

村田氏は手術で投手生命も終わりと言われたが、85年シーズンは2年間のブランクをものともせず、開幕11連勝を飾るなど90年の引退まで手術後59勝(通算215勝)を挙げた。

ナタで木を切るような豪快なフォームから名付けられた「マサカリ投法」が術後に復活し、トミー・ジョン手術が一躍脚光を浴びた。

最近では田沢純一(レッドソックス)、松坂大輔(ソフトバンク)、和田毅(カブス)藤川球児(レンジャーズ)らが手術後にマウンドに帰ってきている。

▽特定できない原因

昨年7月、ヤンキース入りした田中将大が右肘じん帯部分断裂で日米球界に衝撃を与えた。田中は手術を避け注射による療法で昨年終盤に復帰登板を果たし、今季に本格復帰をかけている。

肘を壊す原因についてはいろいろ取りざたされている。日本人はアマチュア時代に投げすぎていると指摘されたが、必ずしもそればかりとは言えないようだ。

メジャーの使用球は日本に比べて大きく滑りやすい。マウンドが硬く体への負担が大きい。メジャーの先発投手は中4日で投げるが、いくら100球で交代しても登板間隔が短すぎるという指摘は、田中が故障した直後に、ダルビッシュが「(日本のように)中6日あればじん帯などの炎症は取れる」と発言して波紋を広げた。

先発投手が中6日で登板すれば、肘への負担は軽減されるだろう。メジャーでも今後、検討されるかもしれないが、この登板間隔より、150キロを超える速球とさまざまな変化球が及ぼす影響が大きいように思う。

強い球を投げれば負担が大きくなるのは当然だろう。だから「○○○キロの豪速球を投げた」とマスコミがこぞって取り上げるのは、速球派ではない投手への“無意識な影響"を考え、私は大反対である。球速より緩急を付けた投球こそ威力を発揮することを早く知るべきである。

こうした投手の故障に対して、最近言われているのが投球フォームである。一例が走者のいない時でもワイドアップではなくセットポジションからの投球が目立つ。

コントロールを重視したもので、体全体を使わない分だけ、肩、肘に負担がかかる。

逆に、トルネード投法の野茂英雄氏が故障知らずだったのは、体を大きく使う分、肩、肘への負担はあまりかからなかったのではないかと思っている。

体の強さなど個人差はあるだろうが、スプリットボールなど小さく変化する球も肘に負担がかかるものだ。

▽高校野球は球数制限を

いずれにしても、日本人は子どものころから球数を多く投げている。その影響は必ず出る。高校野球は投手の負担軽減策としてタイブレーク制導入など延長回での工夫を打ち出しているが、もう少し踏み込んだ方がいいと思う。

米国高校野球では球数制限や1週間に投げるイニング制限などを決めて保護している。

高校野球が明確な方針を打ち出せば、自ずと少年野球でも厳しい制限を設けるだろう。プロ野球でも最近は完投する投手はほとんどいなくなった。メジャーのように投手の分業化が進み、投球数にも注目は集まり出した。

さまざまな意見はあるだろうが、よく議論して組織が決断を下すことが求められている。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆