ひょんなことから取材を始めた。会社帰りに立ち寄った自宅近くのスーパーマーケットで、隅の方に貼られていたポスターに興味をひかれたのだ。大阪市内で車いすバスケットボール女子の国際親善大会(2月11日~14日)が開かれ、音楽ソフト大手のエイベックス・グループ・ホールディングスが特別協賛するという。「せっかくだから一度見てみよう」と思い、手帳にその予定を書き留めた。

ひとたびアリーナに足を踏み入れると、車いす同士がぶつかり合う迫力に圧倒された。一対一で対峙した選手が、互いの進路を予測して巧みに車体を操る。ディフェンスに成功すると「ガッシャーン」と激しい衝突音が響き渡る、まさに車いすを使った格闘技といったところだ。

エイベックス社の三浦卓広総務人事本部長は「(エイベックス所属で日本代表の)上村知佳から事情を聞いていた。強豪が集まる大会を残さないといけないと思った」と協賛の意図を説明する。2003年に始まり、07年からは女子に模様替えされたこの大会は、3~4カ国の対抗戦で行われてきた。しかし、大阪市の予算削減のあおりを受け、昨年はオーストラリアとの国際交流試合に縮小されていたのだ。

エイベックス社は08年から障害者アスリートを雇用しており、障害者スポーツの普及に熱心な企業である。車いすテニス女子で活躍する上地結衣は、その象徴的な存在だ。2020年の東京パラリンピックを控え、障害者スポーツを社会に根付かせていくためには何が必要か。三浦本部長は「スター選手の存在」をキーワードに挙げる。

フェンシング男子の太田雄貴、サッカー女子の澤穂希、レスリング女子の吉田沙保里―。近年、五輪や世界大会で知名度を上げた競技には、「顔」と言える選手の存在がある。障害者スポーツの世界でも、スター選手が続々と誕生すれば、リハビリではなくスポーツとして認知され、見方も変わってくるというわけだ。

翻って、車いすバスケットボールはどうだろう。私は26歳のポイントゲッター、網本麻里選手を推薦したい。生まれつき右足首に障害があった網本は、高校1年の時に車いすバスケットボールを始めた。翌年日本代表入りを果たすと、08年の北京パラリンピックでは得点王に。今大会でも日本代表をけん引し、優勝に大きく貢献した。

ことし10月には、千葉市でリオデジャネイロ・パラリンピックの出場権を懸けたアジアオセアニア大会が開かれる。網本は「ロンドン・パラリンピックに出られなかった分、重みがある。ホームの力を生かしたい」と並々ならぬ意欲を燃やしている。

三浦本部長は「いくばくかでも収入が得られ、集客できるイベントにしていきたい」と今後の展望を語る。車いすバスケットボールは障害の有無にかかわらず楽しむことができる競技だ。5年後に迫った東京パラリンピックをお祭りで終わらせず、今後の普及につなげていくことができるか。残された時間がそう多くない中で、知恵を出し合うことが求められている。

竹内元(たけうち・はじめ)1987年生まれ、東京都出身。全国紙に勤務した後、2012年に共同通信入社。大阪運動部と広島支局でのプロ野球担当を経て、14年末から大阪運動部で大相撲、ボクシング、アマチュアスポーツなどを中心に取材。