試合開始から少しの時間を経て見えてくるものがある。自分たちと相手との力関係だ。ここで実力上位のチームは「これはいける」と感じて試合を進めて行くものだが、場合によっては実力差がスコアに反映されないことがある。そしてこの場合、得てして焦りを感じるのは自分たちのほうが実力では勝っていると思っているチームだ。

「いつかは勝てる」と思っている者と「一発、相手にギャフンと言わせてやろう」と思う者。追われる者より、追う者のほうが一般的には肝が据わっているからだ。

アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)本戦出場を懸けたプレーオフ。チョンブリ(タイ)と対戦した柏レイソルがまさにそれだった。昨年まで指揮を執っていたネルシーニョ監督は、相手の特長を消し、手堅さで試合を進める指揮官だった。今シーズンの柏はそこからバージョンアップ。吉田達麿新監督の志向する、自分たちが主導権を握り、仕掛けていくサッカーに変化している。

柏のホームで行われた今シーズン初の公式戦は、立ち上がり8分に動く。大谷秀和のシュートのこぼれ球を詰めた武富孝介が先制点を奪ったのだ。楽勝を予感させる展開となったが、ブラジル人ストライカーを前線に残すチョンブリのカウンターは予想以上に鋭い。直後の前半10分には最終ラインからのロングパス1本で抜け出たアスンプソンに初シュートを許すと、これを決められ1―1の同点に追い付かれた。

それでも柏の選手は笑っていられた。圧倒的にボールを支配し、数多くのシュートチャンスを作り出していたからだ。ただそのような優位が、必ずしも勝利に結びつくとは限らない。それは先日のアジアカップで目にしたばかりだ。

後半13分、相手DFのハンドによる幸運なPKをレアンドロが決めて柏が再びリード。展開的に見てもこれで一息というのが柏の選手たちの正直な気持ちだっただろう。だがこの精神的優位も長くは続かなかった。7分後にはクルクリットに目の覚めるようなミドルシュートを決められ、再び同点に。「これだけ攻めているのに、また同点か」というのが柏の選手たちの本音だったのではないだろうか。心が疲れるはずだ。前半はシュートを外しても見られた笑みが、苛立ちを持った表情に変わっていく。ある意味でチョンブリの思うつぼにはまってしまった。

一見、柏が圧倒しているようにも思える展開。ただシュートの場面を見れば、必ずしも決定機が多かったわけではない。ゴール前を固めるチョンブリの守備陣は、サイドへのカバーを捨てたことで選手の移動距離も短かった。体力的に余裕があればシュートブロックに対しての反応や集中力も切れない。

加えてコースが限定された中で、相手GKが正確なポジショニングをとっていれば、例えシュートがゴール枠に飛んできたとしても正面を突く。柏が放つ多くのシュートがGKシンタウィチャイのファインセーブに防がれた場面も、そう考えれば必ずしも可能性が高いフィニッシュとはいえなかったのだ。

内容的には一方的に見える展開だが、勝敗の行方は延長戦にもつれ込んだ。この事実を見れば、チョンブリの戦い方は形こそ違え、また一つの正しい真剣勝負の勝ち抜き方なのだと思う。

ただ、この夜の試合に限っては最後に女神が振り向いたのは柏の方だった。ここまで攻撃に細かな手数をかけていた柏だが、延長後半11分の決勝点は単純明快なもの。太田徹郎が上げた右CKを、レアンドロがヘディングでたたき込んだゴールだった。

シュート6本の相手に対し41本を放ちながらも延長までもつれ込んだ3―2での勝利。薄氷を踏んだとはいえ、吉田監督の初陣を飾れたことは、柏の選手たちがチームの方向性を信じ続けるという意味でもよかった。ただラストパス、フィニッシュの精度という改善点が数多く表面化したことも事実だろう。

長らく下部組織を指導してきた吉田監督が、子飼いのメンバーで作り上げる新しいサッカー。感じたことは、柏の目指すサッカーが成熟したら、観る者を飽きさせないだろうなということだ。その未完成のサッカーをアジアの真剣勝負の場で最低6試合は試せる。きっと大きな財産を上積みできるはずだ。その意味で苦しみながらもACLの切符を手に入れたこの夜、多少の注文はつけられるかもしれないが、柏にとっては勝利という結果さえ手にすればそれでよかったのかもしれない。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。