使い勝手のいい実用的なバッグがあるのに、欲しがるのはブランド物の新しいバッグ。美しく包装された最新作をいざ手に入れてみると、予想以上に使いにくかった…。日本代表の新監督選びがそんな笑えない話にならないことを願っている。

連日のように新たな日本代表監督候補のニュースが報じられている。真偽のほどは定かではないが、前イタリア代表監督のチェーザレ・プランデリ、前インテル・ミラノ監督のワルテル・マッツァーリ、元イングランド代表監督のグレン・ホドルなどが打診を受けたものの、断りの返事をしたという。

そんな中、新監督との交渉に当たる日本サッカー協会の霜田正浩技術委員長が8日、欧州に向かったという話を聞くと、日本協会の目は欧州に向けられているのかなと感じる。

日本協会の主な優先順位は次の通りだという。(1)選手または監督としてワールドカップ(W杯)を経験した(2)UEFAチャンピオンズリーグ(CL)を監督として采配した(3)日本代表の監督として適性がある―。

三つの条件を見ると、なるほどと思う。日本協会がまず欧州から手をつけたのも、(2)があるからだろう。欧州のトップクラブで争われるCLは、W杯を上回るレベルにある。単独のクラブチームが、世界中のスーパースターを集めたならば、代表チームより強くなるのは当たり前だろう。その個性の強いスター選手たちをまとめ上げる能力がある監督は、間違いなく優れた指導者だ。ただ、無理をしてまでもこのクラスの指導者が日本代表に必要かとなると、個人的にはそうは思わない。なぜなら指導者には、得意とする指導対象のレベルというのがあると思うからだ。

レアル・マドリードに代表される、キラ星のごときスターぞろいのチームをまとめることに才覚を発揮する指導者もいれば、スーパースターのいない中堅チームの力を引き出すことにたけた指導者もいる。確かに、内田篤人や本田圭佑、長谷部誠など日本人選手でもCLを経験している選手は多い。ただ、彼らは所属チームにおいて重要な選手ではあっても、必ずしも主役ではない。それを考えれば、CLでの采配うんぬんは、必ずしも日本代表の強化に反映されると限らない。

日本サッカー界は、過去にビッグネームを監督に招聘し失敗した苦い経験がある。1994年5月就任し、わずか半年で解任された元セレソン(ブラジル代表)のパウロ・ロベルト・ファルカンだ。82年W杯ではジーコ、ソクラテス、トニーニョ・セレーゾとともに“クワトロ・オーメン・ジ・オロ"(黄金の4人)と呼ばれたスーパースターは解任後、こう感想をもらしたそうだ。「日本選手のレベルがここまで低いとは思わなかった」。

当時はJリーグ開幕直後。3年前までセレソンを率いたファルカンの目には、日本の代表選手でさえもブラジルでは並のプロ選手以下の技術レベルでしかないと映ったのかもしれない。それを考えれば、指導者にとっても自分が影響力を与えられる選手レベルというのが存在しているに違いない。

世界でもトップの指導者が日本代表を率いたらどうなるか。見てみたくないかといえばうそになる。ただ、日本協会が払える年俸は2億円前後という。この金額で最高レベルの監督は現実として連れてくるのは無理だ。例えば、イングランドの名門アーセナルの監督で日本でもおなじみのアーセン・ベンゲルのクラスだと10億円もするというのだから。

W杯での実績。その条件こそクリアできないが、日本サッカーを知り、日本人選手の扱いにたけている指導者たちがいる。日本協会は、なぜJリーグで実績を残したブラジル人監督の順位を低く見るのか。鹿島アントラーズでリーグ3連覇を果たしたオズワルド・オリベイラや、セレッソ大阪で香川真司や清武弘嗣を日本代表に育て上げたレビー・クルピなどブラジル人の指導者たちは、個人的には信用に足りる指導者だと思う。

確かにベストではないかもしれない。しかし、まったく日本に縁のない監督よりはずっと計算ができる。そして彼らが日本サッカーを熟知しているように、日本のサッカー界が最も影響を受け、“空気"のように受け入れられるのがブラジルだ。その使い勝手のいいブラジル製のバックで、ロシアに出かけるのも決して悪くはないと思うのだが。

ニュースを耳にすると、日本協会はどうも欧州製のバックに憧れているようだ。未知のブランドに魅力を感じる気持ちはもちろん分かる。ただブラジル製と違い新たな国からの買い付けは、これまで積み上げてきた信頼関係がないだけに、かなりハイリスクだ。たとえ、「不具合」が出てもアフターサービスは期待できない。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。