うまいと思わせるプレーをするチームにはよく出くわすが、局面での流麗さが必ずしも強さと結びつかない。サッカーというスポーツの難しさはそこにある。

観客は美しく、そして強いチームを求めている。ただ、美しさは、時にフィジカルを前面に押し出したリアリストたちの格好の餌食になる。その激しさをさらに上回る技術でいなし、相手の戦意を吸い取るほどの強さを見せたチームが数年前のFCバルセロナ、そして2度の欧州選手権と2010年のワールドカップ(W杯)のビッグトーナメントに3連覇を果たしたスペイン代表だろう。

現在、真夏のオーストラリアで戦い繰り広げる日本代表。少なくともアジアのレベルでは、このチームは格の違いを見せつけている。スコアだけを見れば大勝ではない。1月16日のイラク戦は、本田圭佑のPKによる1点を守り切った1―0の勝利。20日のヨルダン戦も本田と香川真司のゴールで2―0のスコアだった。

試合内容を見ずに新聞の結果だけを確認すれば、大きな実力差がないようにも思える。ところがサッカーの1点に含有される実力の差は、想像以上に大きいことがある。

Jリーグが開幕する以前、サッカーに関する限り相手は思っていなかったかもしれないが、日本が一方的にライバルと思っていた韓国との実力差は、まさにそれだった。

史上初のプロ監督ハンス・オフトが指揮を執った1992年8月29日。北京で行われたダイナスティカップ決勝で、日本代表は2―2からのPK戦で韓国に競り勝ち、国際大会での初優勝を飾った。1957年3月7日以来、これが区切りとなる50回目の日韓戦。対戦成績は日本の6勝13分け31敗という圧倒的な負け越しだった。ここまでの道のりは長かった。日本とすれば大敗を1点差負けにし、1点差負けを引き分けに。そして1点差で勝つことに、どれだけのエネルギーを費やさなければいけないかを思い知らされる歴史だった。

わずか1点差のなかに含まれたすごみ。今回、日本と対戦する各国は、かつて日本が韓国に対して抱いた思いを抱いているのではないだろうか。それはヨルダンを率いた、かつてのイングラン代表の名手レイ・ウィルキンス監督の「パワー、スピード、フィジカル、すべての面で日本が上だった」ということからも分かる。正直な感想だろう。

そして予選リーグ3戦を通じて自分たちのサッカーを展開し続けられる日本も素晴らしい。よく選手たちは「自分たちのサッカーをするだけ」と発言するが、それは相手との力関係によるところが大きい。自分たちのサッカーを貫けるというのは、相当な実力差を持っていなければ不可能だ。その意味で今回の日本は、アジアのなかではずばぬけた存在といえるだろう。

アギーレ監督が率いてはいるが、今回のチームはザッケローニ前監督が築き上げたチームの集大成だろう。先発のうち10人がW杯ブラジル大会のメンバー。コンビネーションに問題はない。さらに他のアジア諸国とは比べものにならないほどの一流国と対戦してきた。その植え付けられた自信は、良い意味でのアジアの国々を見下す余裕につながっている。加えてほとんどの選手が、欧州のトップリーグで活躍こともあり、個人戦術のレベルも他国とは違う。サッカーのなんたるかをよく知っているのだ。

アギーレ体制になってから日本代表が一番変わった点。それは4バックの前にアンカーを置くようになったことだ。チーム立ち上げのときには、このポジションに森重真人などを起用しちぐはぐさが目立った。アンカーの両サイドに空いたスペースを使われることが多かった。

確かに対戦相手もウルグアイなど、一流国が多かったということも考慮しなければならない。ただ復帰したキャプテンの長谷部誠がこのポジションに入ったことで、チームのバランスは飛躍的に向上した。それは他ならぬ長谷部の身に付けた、複数のポジションをこなすポリバレント性とサッカー偏差値の高さが生かされているからだろう。長谷部自身もアギーレ監督の守備に関する指示を受け「守備の意識が強くなっている」と話しているが、それが対戦相手にほとんどシュートを打たせることのない堅守につながっている。

4枚で組んだ最終ラインの両翼に攻撃的なサイドバックがいた場合、2人のセンターバックの間に下がって3バックを形成するボランチの守備力と戦術眼は非常に重要だ。伝統的に4バックの前に「8番」と「5番」の2枚のボランチを置くブラジルはこの守り方が巧みだ。1994年のW杯米国大会。4度目の世界一に輝いたとき、「8番」のドゥンガとともにボランチを組んだのが「5番」がマウロ・シルバだった。長谷部はこのマウロ・シルバ的な役割を今大会、そつなくこなしている。その意味で経験豊富なキャプテンの存在は、日本の大きな安心のよりどころになっているといえる。

遠藤保仁、長谷部という安定感と落ち着きのあるベテランがチームをコントロールする。そのなかで得点源である本田、岡崎慎司に加え、香川のゴールも生まれた。さらに投入された直後の武藤嘉紀が見事なアシスト。チームの流れは非常に良い方向に向いている。

確かにここからは一発勝負のトーナメント。絶対ということはない。ただ、日本がここ3戦のパフォーマンスを持続すれば、アジアカップの対戦相手は1点に秘められる底知れぬ実力の差を思い知らされるだろう。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。