1月29日に行われたイチローのマーリンズ入団記者会見を見ていて、イチローが珍しく興奮状態にあると思った。異例ともいえる日本での入団発表だったからかもしれない。

「球団のやたら熱い思いが伝わってきて、この思いに応えたいと」とか「(ヤンキースで背番号が)31番になったとき、最初のサインは本能で(プロ選手になって以来つけていた)51番と書いてしまったくらい僕の手は51番を覚えている」と言い「これからも応援をよろしくお願いします、とは絶対に言いません。応援していただけるような選手であるためにやらなくてはいけないことを続ける」と、「イチロー節」を次々と繰り出した。

私には、イチローがヤンキースでの“屈辱の2シーズン"のリベンジの機会をマーリンズが与えてくれたことに対して素直に喜び、メジャー最終章に気持ちを新たにしていると映った。

▽時間が惜しい

2012年途中、マリナーズからヤンキースに電撃移籍したイチローは、かつてのような10年連続200安打といった働きはできなかったものの、14年シーズンは代走や守備要員での起用も多く見られた。

ヤンキースという名門チームだからできたのか、このスーパースターに対する扱いとして首を傾げざるを得ない場面が多々あった。

安打数は102とメジャー14年間で最低だった。イチローはヤンキース時代を振り返り「なかなかあの経験はできることではない。未来の中で大きな支えとなる2年間でした」と語ったが、取りようによっては微妙なニュアンスにも感じられた。

今回、マーリンズ球団の幹部が長時間をかけて日本にやって来たのは、日本のファンへのアピールもあったようだ。

若手の外野手3人がそろうマーリンズとは1年契約だが、イチローは米野球殿堂入りへ「当確」となるメジャー通算3000安打にあと156と迫っており、今季あるいは来季の達成時には注目されることになる。

そうした球団の思惑もあるようだが、日本で発表したのはイチローの事情を優先したからだと思う。

イチローは昨年のシーズンが終わるとすぐに、今季に向けた綿密なトレーニング計画を日本でスタートさせていて、日本と米国を往復する時間が惜しかったのである。それを球団が理解したのだろう。

▽メジャー最年長野手

現時点でメジャー40人枠に登録されている選手では、イチローが最年長野手である。競争の激しいメジャーで41歳の選手が、約2億5000万円の年俸で契約できるのはそうあることではない。

しかも守れて走れるのだから貴重な戦力である。イチローにすればトレーニングを大事にし、シーズンに向けて立てたスケジュールを絶対に崩したくないと思うのは自然なことなのだろう。

イチロー自身、年齢からくる衰えを感じないわけにはいかないだろう。「(マーリンズ外野手の)3番目を望むというのはどうかと思う」と素直に話している。

ヤンキース時代のような中途半端でない起用で、自分が全力でプレーをやり切る。ここにイチローの本音があると思う。

日本のスポーツマスコミはイチローに厳しく、時として評価が低い。これはイチローが報道陣に厳しく接してきたからでもある。野球を勉強しない記者には「しゃべらない」からだ。

中日の落合博満GMは監督時代に「野球を知ろうとしない記者に、何で話さないといけない」と言い放ったものだ。こんな本音は日本では嫌われる。

▽日本球界復帰はあるのか

あるテレビ番組でソフトバンクの王貞治球団会長が「イチローは120パーセント、日本の球界には帰って来ない」と断言していた。裏を返せば、ソフトバンクはイチローに日本復帰を打診したとも推測できた。

イチローの古巣オリックスも「日本に帰るなら」と声は掛けたと思う。メジャーから日本に復帰する選手も珍しくなくなったが、野茂英雄や松井秀喜両氏などの大物は、米国で選手生活を終えた。果たしてイチローの日本球界復帰はあるのだろうか。

昨年のシーズン前、ヤンキースの黒田博樹投手が同じ年の松井秀喜氏に盛んに「引退を決めたきっかけは何だったか」と聞いた。

松井氏がはっきり答えることはなく「なんとなくそうなった」と言っていたように思う。その黒田は選手生活の最後として古巣広島を選んだ。

私はイチローが日本に帰ってくる可能性は低いと思っているが、それはプライドの問題ではないと思っている。体が十分に動いて、なおイチローが熱い心でプレーできるかどうかにかかっているように思うからである。

もちろん、受け入れる日本球界や球団の確たる姿勢は重要な要素となろう。イチローは案外「情と理屈」に弱そうな気がしている。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆