「ビアンキに敬意を示すため、マシンを組み立て、ガレージに入れるが、代役のドライバーをたてることはしない」

10月5日のF1日本グランプリ(GP)決勝で起きたアクシデントで頭部に重大な損傷を受け、現在も入院中のジュール・ビアンキを応援するため、所属するマルシャ・フェラーリは次戦(12日決勝)のロシアGPをマックス・チルトンの1台体制で戦った。

ビアンキと同じフランス人のジャンエリック・ベルニュ(トロロッソ・ルノー)は、ビアンキをサポートするステッカーの作成を提案。ロシアGPではF1ドライバーに加え、GP2など下位カテゴリーのドライバーも、このステッカーを貼って、支援の意思を示した。また、ロシアGPと同じ日に日本で決勝を開催した、世界耐久選手権(WEC)とバイクのモトGPでも、ビアンキへの応援活動が行われた。違うカテゴリーや自動車以外のモータースポーツにまで、事故からの回復を願う運動が広がったことは過去に例がなく、特筆すべきことだ。

現代のドライバーにとって、「レース中の死」は意識こそすれ、非現実的なものになりつつあったと言っていい。今回の事故は「モータースポーツは危険」という当たり前のことをすべての関係者に再認識させた。そんな中、ドライバーがむき出しになっているF1のコックピットに「キャノピー」を取り付ける変更案が出てきた。キャノピーとは、戦闘機などに見られる透明な風防。それで今回の事故が防げたかは不明だが、前方から飛んでくる異物が引き起こす事故を防ぐことは期待できるだろう。

1950年の創設以来、一貫してオープンコクピットを採用してきたF1にとって大変革となるだけに、ドライバーにも賛否が分かれる。フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)が「僕たちは現代を生きているのだから、そうした進化があってもおかしくない」と肯定する一方、セバスチャン・フェテル(レッドブル・ルノー)は「F1はオープンコックピットで戦うものと思ってきた」と否定的だ。とはいえ、フェテルも「安全はもちろん大切」と話すように、安全性向上に関して異議を唱える関係者がいないことは確かだ。

F1マシンがキャノピーを採用し、漫画やアニメの世界で見られるような“サイバー・フォーミュラ"に近づくかは現段階ではわからない。だが、F1全体がより高い安全性を求めるために大きくかじを切ったことだけは間違いない。(モータージャーナリスト・田口浩次)