サッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会で1勝も挙げられなかった日本代表が、ハビエル・アギーレ監督の下で4年後のW杯ロシア大会に向けて再始動した。新体制のお披露目となったウルグアイ、ベネズエラ両代表との国際親善試合は1分け1敗に終わったが、鋭い速攻には見応えがあり、新戦力の活躍とともに収穫はあった。監督が与える「自由」と選手がどう向き合っていくかという大きなテーマも見えた。

アギーレ監督は選手の自主性を重んじ、ピッチ内外で大人扱いする。特に今回は試合までの準備期間が短かったこともあり、戦術面の決まり事は最小限だった。その代わりに求めたのは柔軟さや発想力だ。ベネズエラ戦前のミーティングでは「日本選手の枠から飛び出してほしい。私が指導したことだけにこだわらず、自由にプレーしてほしい」と指示を出したと明らかにした。

約束ごとが多かったザッケローニ監督体制に慣れた選手にとって、これが何より難しい“お題"だったかもしれない。ベネズエラ戦では、いくつかのパターンを繰り返し練習した守備ラインからの組み立てに拘泥した。相手が前線からプレスをかけてきても、同じように後方からつないだ。前半30分すぎに立て続けに自陣でボールを奪われてピンチを招いた原因だ。

チームの立ち上げ期の選手には、とりわけ練習の内容を試合で忠実に再現しないといけないという思いが強い。それが代表定着へのアピールになるという思いもある。だがメキシコ人監督が求める本質は違う。「アイデアは与えるが、それを発展させるのは選手の自由。チェスやコンピューターゲームのように、このようにやらないといけないというものではない。ピッチの中で人間がプレーを考えながらやっていくのだ」との考えを浸透させるのが大きな仕事だろう。

同じように選手に自由を与えたブラジル人のジーコ監督の下で挑んだ2006年ドイツ大会は1次リーグで敗退した。約束ごとや戦術で縛らないことで創造性や真の責任感が生まれるとの信念から選手を大人扱いしたが、それに応えられるほど成熟していなかった。「自由」の重さに耐えられなかった日本はそれ以来、オシム、岡田、ザッケローニと戦術指導にたけた監督が続いている。

特にイタリア人の前任者は、ボールの位置による体の向きや追い方、味方のマークを外すためのおとりの動きや位置取りなど攻守に事細かく指導した。言われたことに忠実に従う日本選手には合ったやり方だったかもしれない。反面、W杯ブラジル大会では相手との力関係や試合の流れに応じ、ピッチの中で選手が判断して戦うという柔軟性に欠けた。想定外の事態に対する弱さは、決定力不足に並ぶ長年の課題と言っていい。

ジーコ体制以来、8年ぶりに向き合う「自由」と選手はどう格闘するか。酒井高(シュツットガルト)は「ザックさんみたいに細かく決まり事が多いと、言われた通りに遂行してやられても『それは仕方がない』という逃げが出ることがある。選択肢が与えられた選手は自己主張が問われ、責任感を持ってプレーしなければならない。試合の展開を読んでどう動くか。チームとしてのレベルを上げるには大事なことだ」と意気込む。「自由にプレーしたいと思わない選手はいない。そう思いたい」というアギーレ監督に応えられるか。日本選手の成熟度が試される新体制になりそうだ。

出嶋 剛(でじま・たけし)1980年生まれ、佐賀市出身。スポーツ紙で8年間勤務し、2011年7月に共同通信に入社、大相撲とボクシングなどを担当し、13年からはW杯ブラジル大会などサッカーを主に取材。

★★★アジア大会開催などに伴い本欄は9月24日付から休載し10月15日付から再開します★★★