レベルの高い、低いにかかわらず、サッカーをやっていてがっかりすること。それはせっかくいいタイミングで走りだしたのに、パスが出てこないことだ。

ワールドカップ(W杯)など高レベルの試合のなかでも、FWが絶好のタイミングで動きだしたのにボールが出てこない。そのことに対して腕を振り上げ、「なんで出さないんだよ」とあからさまに不満を示す選手がいる。このレベルのストライカーは、世界有数のエゴイストが多いので、選手たちの感情の表し方を見ているだけでも飽きないのだが。

逆にプレーしている選手たちが、気持ち良くサッカーができるのは、走ったところ、走ったところに次々とパスが出てくる状態だろう。J1第20節でセレッソ大阪と対戦した川崎フロンターレの試合、特に前半はそのような内容だった。

3―4―3のフォーメーションという基本形はある。ただ選手たちがためらいなくボールホルダーを追い越して前線に駆け上がる。その戦いぶりを見て、ある言葉が浮んだ。ミシェル・プラティニがいた頃に形容されたフランスの「シャンパン・サッカー」だ。

なぜシャンパンか。フランスの名産品だからという単純な意味ではない。ボールホルダーの後方からオーバーラップする選手。その光景がグラスの底から絶え間なく沸き上がるシャンパンの気泡にも見えたからだ。

意味もなく足元へとボールをつなぐチームが多いなかで、今シーズンの川崎のパス回しには明確な意図が見える。相手守備陣の視線をボールに食いつかせ、裏に抜ける選手への駆け引きの間を与えている。開始10分に小林悠が決めた際の小林の動きだしと、タメを作った大久保嘉人のスルーパス。前半終了間際にゴール前に走る抜けた中村憲剛とレナトの息の合ったコンビネーションからの4点目。選手同士が共通の画像を頭のなかで描くことができるからこその美しいゴールだった。

先制点こそ奪われたが、前半戦は圧倒的な川崎のペース。ところが後半は一転してセレッソのよさが出た試合だった。J2降格の危険水域に位置することに加え、前半で3点のビハインドを負ったということで開き直りもあったのだろう。単純にゴールを目指したところが追い上げにつながった。中でも高度な技術が見られたのが後半40分。4―5とするフォルランのゴールだった。

長谷川アーリアジャスールにボールが収まったところを見極めてのフォルランの裏への飛び出し。それにピンポイントで合わせた長谷川のパスも見事だったが、特筆すべきはフォルランのシュート技術。一見簡単そうに見えるが、背後から飛んできたボールをボレーで合わせるのはかなり高度な技術。それを易々とやってのけるところがワールドクラスといわれるゆえんだろう。こんなターゲットがいたらパスの出しがいもあるというもの。

長谷川、フォルランのコンビネーションも、前半の川崎のゴールシーンに匹敵する素晴らしいものがあった。スタンドで観戦する観客の多くは、自分がプレーした感覚で試合を見ていることが多い。「いま、あのスペースにパスを出せば」。自分の持つ戦術眼とピッチで展開されるプレーが一致したときは、とてもうれしいものだ。その意味でこの試合は、多くの観客に満足感を与えたのではないだろうか。

お互いが勇気を持ってチャレンジした末の5―4。終わってみれば9ゴールが乱れ飛んだ試合となった。バーやポストの直撃もあったので、見る者からすれば攻撃の満腹感を十分に味わえる内容だった。それほど両チームは攻撃に関しては迫力があった。逆に守備はとなると、これだけの失点をすれば当然問題点も浮かんでくるはずだ。

確かに酷暑のなかでの試合は、ボールを持っている方に主導権がある。体力的にきついので、守備で走らされた側はどうしても反応が鈍くなる。対応が遅れて失点を許すという場面をよく目にする。

このような試合展開となったのは、選手の組み合わせなどさまざまな要因が複雑に絡み合ってのことだろう。ただこの日の両チームに関しては、今後このような試合を続けていくことは決してよいとはいえない。

勝利を収め2位に浮上、タイトルを狙える位置につけた川崎。16位とJ2降格圏に落ちたセレッソ。立場は違えども、必要なのは1ポイントでも多い勝ち点。そのために、今後のリーグ戦では我慢の試合も数多くなるはずだ。

真夏の空に打ち上げられる美しい花火大会。派手で楽しめる試合を見ながらも、リーグの結果を左右するのは手堅い試合運びであると思った。ひねくれているだろうか。

岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。