F1を目指すドライバーが「最後のステップ」に選択するレースカテゴリーは複数ある。欧州ではニコ・ロズベルクやルイス・ハミルトン=ともにメルセデス=を生んだ「GP2」やケビン・マグヌセン=マクラーレン・メルセデス=が参戦した「フォーミュラ・ルノー3・5」、そして、ロマン・グロージャン=ルノー=が走った「オートGP」が有名だ。残念ながら、日本からは2002年のフォーミュラニッポン王者で、翌シーズンはジョーダン・フォードで走ったラルフ・ファーマン以来、F1への道は開かれていない。

そんな中、先週末にとびっきりの吉報が届いた。今季、GP2とオートGPに掛け持ち参戦している佐藤公哉がオートGPの年間王者を決めたのだ。しかも、シーズンの残り1戦、2レースを残しての王者獲得。初参戦となった昨季のオートGPでは、シーズン途中まで王者争いを大きくリードしながらも逆転を許し、シリーズ2位という悔しい結果に終わった。雪辱を誓った今季はここまでの14レースで6勝、決勝で最も速いタイムを記録するファステストラップを7レースで獲得するなど、強さを感じさせる1年だった。

1989年に神戸市で生まれた24歳の佐藤公哉は、個人での挑戦。自動車メーカーによる育成プログラムでの参戦が多い日本人ドライバーでは珍しいケースだ。彼をマネジメントするのは、94年から95年にかけてF1で戦った井上隆智穂。欧州では「タキ井上」として知られている人物に、今シーズンの佐藤の挑戦について聞いた。

「周囲からは反対されましたが、今年はGP2とオートGPに挑戦することを決めました。目標は、GP2では“潜在的な速さ"を、オートGPでは“強さ"を見せること。王者獲得で、一つはクリアしたと思います。GP2は参戦年数が長いドライバーが結果を残しやすいのですが、潜在的な速さを見せれば目に留まる存在となります」

だが、速さと強さだけではF1へのステップアップは果たせない。厳しいが、F1とはそうした世界だ。それはタキ井上も認める。「僕たちにできるのはここまでです。ドライバーに対して常々言っているのは、いつ声が掛かっても結果が出せるように準備をすること。声が掛かるチャンスはあるかもしれないし、無いかもしれない。でも、準備不足でチャンスを逃すことは最悪でしょう」

F1への道は本当に狭い。しかも、個人で挑戦する佐藤には自動車メーカーからのバックアップが期待できない。だが、トヨタのF1撤退で同じように狭き門からふるい落とされた小林可夢偉は、ザウバー時代に世界のF1ファンから注目されたことでシートを再獲得できた。佐藤もファンを魅了する個性を発揮してさらなる高みを目指してもらいたい。

そして、そんな若者がいることをレースファン以外の日本の方々にも広く知っていただきたいと思う。(モータージャーナリスト・田口浩次)