首位攻防戦となった8月12日からの首位巨人と2位阪神の3連戦は巨人の2勝1敗に終わった。

巨人の“失速"と阪神の踏ん張りで、この伝統の一戦はゲーム差1・5で迎えた。

初戦はメッセンジャーの投打にわたる活躍で阪神が先勝した。

メッセンジャーは先発6回を2失点と好投したばかりか、打者として2安打2打点。走者としてヘッドスライディングするなどユニホームを泥で汚して勝利に大貢献した。0・5差。阪神が今季初めて首位に立つかと思われたが、あっさり連敗した。そこで感じたのは執念の差だった。

▽不振阿部の奮起

阪神が必死で首位奪取に向かうかと思われたが、必死になっていたのは巨人選手の方だった。

投手陣がそろわないのが独走に持ち込めない最大の理由だと思うが、打線も重症で固定したオーダーで臨めないのだ。グルグル変わる打順。主力選手は打てないと、代打を送られたりする“屈辱の日々"を過ごしている。

原監督のこうしたさい配は一歩間違えば危険なものだと思うし、いとも簡単に負けたときなど、選手たちのモチベーションの問題かと思ったりする。

しかし、原監督は主力選手や4番打者などお構いなく、実力主義を前面に押し出す格好でチームに活気を生もうともがいている。

打撃成績を見ても打率で20位台と不振の阿部はこのところ一塁を守ることが多く、本人も不本意だろうが、この阪神戦の守備で打球に飛び込むなど必死になっていたものだ。

▽動の原、静の和田は逆

それに引き換え、である。阪神の誰もがこの3連戦の持つ意味は熟知しているはずである。絶対に主導権を握りたい第2戦では、先発岩田が先頭打者本塁打され二回までに4失点だった。

3戦を通じて、気を抜いたようなマートンの走塁や状況判断ができない上本の守備なども見られ、物足りなさを感じたファンは多かっただろう。

動く原監督に対して和田監督はあまり喜怒哀楽を出さない静のタイプである。うまくチームが回転している時は、監督が動くことはない。ただ、ピンチの時にどう打開策を打ち出せるかが監督の腕の見せ所である。

これまで多くの監督を見てきた経験で言えば、チームがピンチに陥った時に動きたくても動けない監督もいた。ペナントレースがヤマ場を迎える8、9月にはさまざまな手を打つ必要がある。

今の阪神は一歩でも巨人の先を行く必要がある。それは監督ら首脳陣、選手たちは知っている。3連戦の初戦を取り一気に巨人をつぶす絶好のチャンスだった。勝負はもっと先にあると思っていたらとんでもない。

▽かつての一丸野球

1985年に阪神が初の日本シリーズ制覇を果たした時の吉田義男監督は念仏のように「一丸野球」を唱えてチームを鼓舞し続けた。

掛布、岡田、バースらの強力打線と池田、ゲイル、中西の投手陣。バースから監督に「リーダーシップを取れない掛布」との不満を聞くと、その対策に乗り出した。

今の阪神を見ていると、日本人選手でチームを引っ張る軸になる選手がいない。鳥谷あたりに期待したいが、さてどうだろう。

原監督はなんとか阿部をチームの中心に据えたいとしているのと同じで、阪神は早くチームの顔をつくらなければならない。それと、和田監督が選手たちに「われわれはこんな野球をやる」と明確に伝えているかどうかである。

選手たちは常に監督の背中を見ているからである。監督からの強い意思が感じらなければ、とても厳しい戦いには勝てないだろう。

▽監督の条件

ヤクルトや西武で計3度日本一に輝いた広岡達朗氏は「監督の条件」としておおむね次の4条件を挙げている。(1)監督は選手に対して嘘をつかず公平でえこひいきしないこと(2)毎日、選手を集めてお説教したり叱咤しない。注意する時は個別に1対1でやること(3)監督は選手に、この監督は本当に野球を知っていると思われ、尊敬されること(4)それぞれの役目を理解できる選手に育て上げること。

さらに「監督の用兵で、そう特異な策があるわけがない。みんな大差はない。結局、選手たちをどう方向づけするかに尽きる」と結論づけている。

名監督と言われる人たちは強い信念のもとで自分の野球観を持っていた。「オーケストラの指揮者かプロ野球の監督」があこがれの的だったものだ。

なるほど、過去には人格者あり博識者あり、とにかく大物監督が多くいた。最近は、魅力あるなあ、と思う監督になかなかお目にかかれないのは、私が年を取ったせいなのかも知れない。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆