「いままで支えてくださった皆さんに(優勝で)感謝を伝えるためにこの場所に来たので…」

これはソチ五輪で金メダル確実と言われた女子スキージャンプの高梨沙羅選手が4位に終わった直後に答えた言葉だ。ソチ五輪までのワールドカップ(W杯)は13戦10勝、ソチ五輪後も5戦5勝とシーズンを圧倒した彼女からすれば、「何が起こったのかがわからない」オリンピック挑戦だったろう。そして今回、第82回ルマン24時間に出場したトヨタチームのスタッフたちもまた、高梨選手と似た感情を抱いたに違いない。

今シーズンの世界耐久選手権(WEC)は開幕から2連勝。今年、トヨタは自信に満ちた状態で伝統の一戦に臨んだ。

「今年はシャシーの完成度も高く、縁石を乗り越えてもマシンが暴れることがありません。そこに四輪駆動の強みで前輪が立ち上がり加速の駆動を稼ぎ、ライバルより速いマシンに仕上げることができたのです」と、木下美明トヨタ・レーシング・チーム代表。

事実、7号車の中嶋一貴は、トヨタとしては1999年以来、日本人ドライバーでは初のポールポジション(PP)を獲得。スタート後も着々とリードを広げ、12時間経過時点で2位に2分近い差をつけた。その後は2位のペースに合わせながら走行する盤石ぶり。しかし、レーススタート後14時間、突然マシンがコース上に停止してリタイアに。

原因は前輪を駆動するモーターへ電気を送る回路に着けられたセンサー周辺の火災とみられている。そのときドライブを担当していた中嶋一貴は「突然、停電のように全電源が落ちた感じで、マシンを止めるしかありませんでした」と振り返った。2台目の8号車はトラブルこそ無かったが、レース序盤に降った雨の中、スロー走行する他車との接触を避けるためにフロント部分を破損。その後挽回し3位表彰台を獲得したものの、ルマン初挑戦から28年目での初優勝を目指していただけに、悔しい結果に終わった。

木下チーム代表は、「高梨沙羅さんは、皆さんの応援を、次のオリンピックまで4年間背負い続けなければいけない。本当にすごいことです。私たちも来年までその気持ちを背負い、残りのシーズンも強い気持ちで臨んでいきます」と語った。

日本人ドライバーによる日本車の優勝は今年もかなわなかった。簡単には勝利の女神はほほ笑まないかもしれない。だが、確実に女神を振り向かせるだけの実力を手にしている。あと一歩だ。(モータージャーナリスト・田口浩次)