アベノミクスに限らず、日本経済再生にもっとスポーツを活用すべきだという声は前からあったが、まさかプロ野球が視野に入っているとは思ってもみなかった。

5月に自民党の日本経済再生本部がまとめた成長戦略第二次提言案の中に、プロ野球の球団数を12から16球団とする構想が盛り込まれていることが突然に発表された。

しかも、増える4球団の候補地として静岡県、北信越、四国、沖縄県があげられていて、6月にも政府にこの提言が上げられるようで、アベノミクスの地域経済活性化として話題となりそうだ。

発表時の新聞各紙の扱いは小さく、真正面から取り上げてはいない。甘利明経済再生相からは「Jリーグに見られるような地域振興策として、一つのアイデアだと思うが、16チームで採算がとれるのかどうか」とあまり現実味はなさそうなニュアンスを感じる。

ただ、プロ野球記者の間には、自民党は安倍政権に近い読売の渡辺恒雄会長に「16球団」の話をすでにしているのではないかと勘ぐる向きもある。

▽球界再編騒動から10年

米メジャーリーグは数度のエキスパンション(拡張)を経て、現在の2リーグ30球団となった。

今年で80周年を迎えた日本プロ野球はセ、パ両リーグとも最大8球団あった時代もあったが、1958年以降は6球団制で足並みがそろって今日に至っている。そこへ降って湧いたようなエキスパンション話。

楽天・星野仙一監督のように「縮小していたら成長はない。こうした話は外部ではなく球界の中から1人でも2人でも出てくれれば、数年後にはひょっとしたらね」と肯定的に捉える関係者は多いはずである。

球界再編騒動が起こったのは2004年だった。近鉄とオリックスの球団合併に端を発し、一気に「1リーグ8球団」の流れができたのだった。

当時の巨人・渡辺恒雄オーナーを中心に「日本には12球団は多すぎる」といった声に、パのオーナー連が「巨人と試合ができる1リーグで球団再生」を狙って賛同し、もうちょっとのところで1リーグ復活が実現するところだった。

プロ野球選手会やファンの「2リーグ制堅持」の声が大きくなり、選手会が史上初のストライキで対抗し、最後は楽天球団の誕生で決着がついたのであるが、あれから10年で倍の16球団。実現性に疑問符はつくが、このぐらいの発想がないとプロ野球は変われないとも思う。面白い。

▽鍵握るコミッショナー

あのころのプロ野球界は誰もが危機感を持ち、球界改革の必要性を口にしていた。セ、パ交流戦が生まれたのは2005年からで、今年で10年目となった。

これなど成果の一つだが、弱小球団を救うための下位から指名できる完全ウエーバー制のドラフト制度改革などは実現していない。

各球団で考えが違うためだが、それをまとめる役割のプロ野球コミッショナーが指導力を発揮できなかったからである。それは今日にも続いていて、コミッショナーの権限を限定したままである。

さて、4球団も新規参入する企業などがいるのか、選手年俸問題を含め球団経営は成り立つのか、選手の供給はできるのか、野球協約改正なども必要になる―など問題は噴出するだろう。

なにより、コミッショナーを中心とした日本野球機構(NPB)にその力があるのか、はなはだ疑問である。今年1月に就任した熊崎勝彦コミッショナーはいまだに「プロ野球の未来図」を示していない。なにもJリーグのように「100年構想」でなくても、人気面の長期低落傾向にあるプロ野球の中期的ビジョンぐらいは語ってもらいたい、と再三書いてきたのだが―。

日本に独立リーグができたのは2005年。元西武の石毛宏典氏が四国に独立リーグをつくったのが始まりだった。不運なことに当時、日本の景気はよくなく、バブル時代なら賛同してくれたであろう企業が「おらが町のプロチーム」にお金を簡単に出してくれなかった。

NPBも相手にしなかったため、石毛氏は苦労したものだったが、10年経って四国や北信越の独立リーグも世間に認知されてきた。今度は逆にプロ野球で地域を活性化しようというのだが、さて、どうだろうか。

▽経営なき球界運営

私は自民党の地域活性化案を契機に、プロ野球の将来やプロ野球団の経営について積極的に議論するいい機会だと思う。

万が一、16球団になれば、知名度アップ戦略となる企業CIを狙った企業がどっと参入するかも知れないが、長続きする経営面を考えれば、球団が独立採算できる体質に作り変える必要が出てくる。

それは取りも直さず、日本プロ野球が創立当初から成り立ってきた「親会社の宣伝広告のための球団」からの脱却を意味する。

日本ハムの前身球団である映画会社・東映の大川博オーナーは今から50年前にこんなことを言っている。

「プロ野球は最初から宣伝の要素が多かった。だからプロ野球が停滞している、というより企業化の道とかけ離れているのは、球団経営そのものではなく、他事業の一部に過ぎないからだ。親会社から面倒を見てもらっている依存ムードを払拭しないと、プロ野球の独立はあり得ない。野球の赤字ぐらいは他事業でなんとかしようという安易な考え方がプロ野球を阻害した」

「経営なき球界運営」。この言葉は日本プロ野球の問題点をずばり言い当てているとともに、スター選手を次々と持って行かれるメジャーとの決定的な差となっているである。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆