新しい土地を手に入れたら、そこにいままであった建物を取り壊し、更地にした上で新しい家を建てる。その考え方も理解はできる。ただ、それは建造物の場合はいいのだろうが、ことサッカーになるとどうなのかなということがJリーグでは多々ある。

ベガルタ仙台のグラハム・アーノルド監督の退任がリーグ開幕6試合の時点で発表された。J1第6節を終わった時点で、ナビスコカップも含め公式戦8試合で未勝利の3引き分け5敗。昨年こそ13位だったが、2012年に2位、2011年に4位と、ここのところ優勝争いに絡んできたことを考えれば、退任という名の解任もやむを得ないだろう。一度、美味な食事を味わったサポーターは、まずい料理は食べたがらないからだ。

今シーズンの仙台を見ていると、2012年のガンバ大阪の姿が重なった。ガンバは当時、3年間タイトルを取れなかったとはいえ、前年は西野朗の指揮の下、3位の成績を収めていた。クラブはさらなる上積みを求め、セホーン監督を新指揮官に迎えた。しかし、結果的に途中解任。チームは初のJ2に陥落した。

原因はそんな単純なものではないだろうが、Jクラブの多くは、基本的にそれまで積み重ねてきたもののすべてを簡単に手放す傾向がある。建物に例えれば、頑丈な骨組みを生かしてリフォームすればいいものを、チーム戦術の根幹をなす大黒柱まで取り外して更地から家を建てようとする。そして骨組みを作るのに時間がかかり、屋根をふかないうちに梅雨の時期を迎えてしまう。

確かに監督というのは、それぞれに哲学があり、自分の実現したい戦術を持っている。その独自性が成功すれば、名監督の称号を手に入れる可能性もある。だから更地に家を建てたいものなのだろう。ただ最も危険をはらむチームの移行期には、前任者が残した強固な骨組みをうまく活用することも必要なのではないだろうか。それを新任監督に要望するのはクラブのフロントの役割だろう。

4月12日に行われた第7節の横浜F・マリノス戦。仙台は3日前に就任したばかりの渡辺晋監督が初采配を振り、今シーズンの初勝利を収めた。チームにとって幸運だったのは、迷ったときに戻る場所があったことだ。6シーズンを指揮した手倉森誠前監督がチームにたたき込んだ、高い位置からのプレスとショートカウンターという戦術は選手たちの体に染みついていた。

アーノルド監督が採用した、4―2―3―1のフォーメーション。相手ボールのときに一度自陣に引いて守備ブロックを作り、そこから攻めるという戦法に仙台の選手たちは慣れていなかった。自陣に引くということは、それだけ相手ゴールから遠い位置から攻撃を始めなければいけない。途中にボールをロスする可能性も高まる。それが6試合を戦って、わずか2得点の貧攻の原因だった。

マリノス戦で本来の4―4―2にシステムを戻したことで、仙台は以前の動きを取り戻した。2―0の得点は、流れのなかからのものではなかった。しかし、1点目のCKは太田吉彰の右サイドの突破。2点目のFKは赤嶺真吾の前線での頑張り。ともに前線からの積極的な守備からチャンスを得たもの。梁勇基の正確なプレースキックがゴールを生み出した。

「とりあえずよかった」。試合後、第一声を発したキャプテンの角田誠は「前からプレッシャーをかける。それが仙台のやり方。アーノルド監督はブロックを作るやり方だったが、前から(プレッシャーに)行った方が簡単」と語っていた。もうワンランク上にいくには、様々な状況にも対応しなければいけないのだろうが、低迷するときに考え込まなくても体が動く基本があるのは強みだ。

今シーズンは控えに追いやられて久々の先発。その試合で2得点を挙げた赤嶺は「まだ1勝ですけど、自信になる。これを続けていきたい」と今後の巻き返しを口にした。

仙台の場合、オーソドックスな4―4―2が合っていると思う。4―2―3―1でトップ下を務めていた梁は、1トップから後方に下がってくるウィルソンとポジションがかぶり、窮屈そうに見えていた。仙台の攻撃の起点となる梁は、相手に捕まりそうで捕まらないところが持ち味。左サイドに張っていながら、気づいたとき中央に入り込んで一仕事する方が、相手にとっては脅威となるだろう。

今シーズン、最初の監督退任で話題を振りまいた仙台。チームが完全に迷走状態に陥る前に決断を下したことは、すぐに結果が出たことも合わせるとよかったことなのだろう。クラブの首脳陣は、対戦相手の巡り合わせも考えたのだろうか。Jリーグで初めて指揮を執る渡辺監督のデビュー戦の相手、マリノスに、仙台はここ3年半負けていない。それも考慮しての監督交代劇だったのなら、すごいことだ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている