サッカーには「ごっつあんゴール」という俗語がある。いわゆる「ごっつあんです」と表現したくなるようなイージーな、おいしいゴールだ。

かつてヴェルディ川崎の黄金期を築いた日本代表の武田修宏さんは「ごっつあんゴール」の達人として知られた。本人の陽気なキャラクターもあって、「運」を強調したことで簡単なゴールと錯覚している人も多いかもしれない。しかし、運だけでJ1歴代14位(4月8日現在)の94得点も挙げられるものではない。そこには確率論の上に計算し尽くされる、研ぎ澄まされた得点感覚があるからに他ならない。

目の覚めるような弾丸シュートでも、こぼれ球を泥臭く押し込んでも、1点は1点。ストライカーに求められるのは、美しさではなく結果だ。

J1第6節が終わり、5得点。大久保嘉人(川崎フロンターレ)、ペドロ・ジュニオール(ヴィッセル神戸)と並び得点王争いのトップに立つ、サガン鳥栖の豊田陽平。彼のプレーを見ていると、「この人は試合が終わると、体力的にだけでなく頭も相当疲れるのだろうな」と思える。豊田の特長といえば誰もが知るフィジカルの強さ。献身的なプレーで攻守に休みなく相手とのバトルを繰り返す。この男は本当の点取り屋だと思わせたのが4月6日のFC東京戦だった。

90分を通せば攻撃面でのチャンスは、ほとんどなかった。FC東京の豊田対策が功を奏し、ボールが入ってこない。豊田は孤立した状態だった。その状況でこの試合唯一のチャンスを生かしたのが、後半40分だった。

「ゴンちゃんのポジションは意識していた。GKがどこにいるかはいつも見ている。予感と言うよりは準備しているので」

左サイドから高橋義希が放ったシュート。一度はGK権田修一にブロックされた。そのわずかな時間に豊田の頭の中を駆け巡ったのは、シューターに対するGKの位置。GKがボールを弾いた場合の反射角度。右サイドのファーポスト際からこぼれ球をプッシュした豊田は「(ゴールは)押し込んだだけ」といっていた。一見、ごっつあんゴールに近いような得点。しかしながら、その1点は想像以上に考え抜かれた末の、必然によるゴールだった。

豊田がこの試合で放ったシュートは、この1本だけだった。それを考えると、1回のチャンスに懸ける点取り屋というのは忍耐強くなければ務まらないのだとあらためて思い知らされた。試合は1―2で敗れたが、90分間を常に予測するストライカーがいる。鳥栖は素晴らしい武器を持っている。

その豊田だが、いまブラジル・ワールドカップ本大会の登録メンバー23人の当落線上にいる。4月7日から3日間、千葉県内で行われた日本代表候補のトレーニングキャンプ。招集された23人のメンバーからGKを除けばフィールドプレーヤーは20人。そのなかから選ばれるのは1、2人と思われる。ザッケローニ監督のメンバーの組み方を見れば、残されたパズルのピースは限りなく少ないだろう。

大きなアドバンテージを持っているのは、海外組を含めたこれまでのレギュラークラスの選手たち。さらに東アジアカップで新たに招集され、オランダ、ベルギーとの試合で活躍した柿谷曜一朗や山口螢(ともにセレッソ大阪)。今回呼ばれなかった国内組の彼らは、千葉キャンプ組とは違うテーブルに置かれたといっていいだろう。

問題はザッケローニ監督が、1トップに何名の選手を登録するか。他のポジションは、ユーティリティーさも考慮されるだろうが、このポジションに限ってはスペシャリティが優先される。

海外のチームとの対戦を考えれば、1トップに正統派のCFを置くのは分が悪い。なぜなら正統派は、相手もそれだけ対戦経験が多く対応の仕方を知っているからだ。その意味でマーク外しの駆け引きのうまい変化球の柿谷は、かなり有効だろう。しかし、ポストプレーもできる正統派もチームには必要。そうなると日本代表の場合、大迫勇也(1860ミュンヘン)と豊田の名が挙がるが、実績からいって大迫が一歩リードしていると思われる。

合宿初日、7人の初選出を含むフレッシュなメンバーのなかで、豊田はザッケローニ監督から個別のアドバイスを受ける数少ない選手だった。それをアドバンテージと見るのか。ただ2日目の紅白戦では、縦方向の距離をペナルティーエリア二つ分、33メートル狭くしたこともあって、スペースを使うプレーが得意な豊田は見せ場を作れなかった。逆に印象を残したのは、同じ1トップを務めたアルビレックス新潟の川又堅碁だった。

「今日は初めて来たメンバーとか、経験が浅いメンバーが決められたことをやろうとするので形にならなかった」

考えるストライカーも、ボールが回ってこなければフィニッシュという形で表現できない。最終メンバー発表を約1カ月後に控え、豊田の頭の中でも期待と不安の入り乱れた複雑な思いが、常に入り乱れているのだろう。

サッカー選手の場合、経歴にワールドカップがあるのと、そうでないのとは雲泥の差がある。4月11日で29歳を迎える豊田。常に誠実な態度でサッカーに取り組む彼の姿を見ていると、喜びを与えてやりたくなる。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている