チームの安心の源になるポジションでありながら、ときには試合を破壊する可能性も含んでいる。GKというポジションは、つくづく難しいなと思う。と同時に、その出来によってチームに多大な影響力を与える存在だ。

3月8日、味の素スタジアムで行われたFC東京対ヴァンフォーレ甲府戦。経験の少ないGKが、結果的になんとか救われる試合となった。もし甲府があのまま0―1で敗れていたら、GK岡大生は精神的なダメージを、その後に大きく引きずったことだろう。若い選手が一回のミスでつぶれていくのは、サッカーファンとしてはあまり目にしたくない。

開始5分だった。FC東京のエドゥーが25メートル付近から放った左足シュート。タックルに入った甲府DF山本英臣の足に当たったボールは、縦回転が増した状態になった。

岡は「両手で取りにいった」といっていたが、ドライブのかかったボールは急激に落ちる。予想とは違った軌道に対処できなかった岡は、右足に当てるのが精いっぱい。後方にゆっくりと転がっていったボールに対してもリカバーできなかった。難しいボールだったとはいえ、明らかなミスだった。

まだJリーグ出場3試合目。他のポジションと違い、一回のミスが失点に直結するGKという責任あるポジションで、精神的に萎縮しないほうが難しかった。岡のプレーは、その後も安定を欠いた。

プロとしてピッチに立つのだから、技術的に一定のレベルに達していることは間違いない。ただ、GKというポジションは、多大に精神的な問題がプレーに影響を与える。日本リーグ時代、日本代表にまで上り詰めた古河電工の下川健一は、読売クラブの加藤善之の蹴ったなんでもないハイボールをキャッチミス。その後、しばらく精神的に立ち直れない時期があった。岡のミスの瞬間、そのことが脳裏に浮かんだ。

責任を感じていると同時に、落ち込んでいることは間違いなかっただろう。岡にとって幸運だったのは、チームメートがその傷口に触れず、あえて言葉にして奮起させたことだ。

ハーフタイムのロッカールームで、キャプテンの山本は、こういって岡に激励したという。

「GKのポジションは、ミスを自分でなかなか取り返せない。だからチーム全体で取り返す。でもおまえがここで下を向くんだったら辞めちまえ」

厳しい言葉ではあるが、このことが結果的に岡の視線を、自分の心の内面からチーム全体へと向けさせたのではないだろうか。

後半に入った62分に見せた、東慶悟のシュートに対する好セーブ。経験豊かなGKと比べれば、安定感に欠けるものの積極的なプレーが見られた。基本的にGKはリアクションでのプレーがほとんどなことを考えれば、普段の練習で出来ることを練習通りに出したのではないだろうか。

本来のプレーで2点目を許さなかったことが、結果的に自分自身の心のダメージを最小限に抑えることとなった。72分に水野晃樹の右からのクロスを、クリスティアーノが鮮やかなオーバーヘッドで決め、1―1の同点に持ち込んだのだ。

試合後の神妙な表情は変わらない。ただ試合後の岡には多少の安心の表情が見られた。

「失点のときはメンタル的に、あーっとなりました。1―1で引き分けてくれて救われました。負けなかったことでホッとしている」

すべの選手にいえるのだろうが、特にGKのポジションは経験が重要だ。それは実戦でしか得られない。練習だけでは無理なのだ。当選、若いGKを実戦で起用するにはリスクもともなう。ただそれをしない限り、優れたGKは育たないのだ。

城福浩監督は、そのことについて次のように語っていた。

「うちはJ1で何十試合も出ているGKを取れるわけじゃない。だから育てていくしかないんです」

そういえば、この日の相手GK権田修一をプロデビューさせたのもFC東京を率いていた時代の城福監督だった。いまや日本代表の常連となった権田にしても、2009年にデビューしたときは、1試合目で4失点、2試合目で3失点と散々な出来だった。それを考えれば、岡もたどらなければいけない道をたどったということか。岡は次の機会に、チームに恩返しをすればいい。

良いGKを育てるには時間がかかる。そして本当に頼れるGKを得たとき、それはリオネル・メッシやクリスチアーノ・ロナウドをチームに持っているのと同じ効用がある。GKは得点こそ生み出さないが、確実に失点を防いでくれるからだ。

それにしても、この日の試合は権田にも単純なキャッチミスがあった。GK受難の日。味スタのゴール下には、金縛り地蔵でも埋められていたのではないだろうか。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている