新しいシーズンの始まりは、いつも可能性に満ちている。それはどのチーム、そしてサポーターにとっても同じだろう。

大雪の影響で中銀スタジアムでの試合が不可能になり、東京・国立競技場に場所を移したヴァンフォーレ甲府のホーム開幕戦。鹿島アントラーズとの試合は、0―4と思わぬ大差がついた。甲府側からいわせれば「悪くはないのに、なんで」という思いで試合が進んでいき、試合終了の笛と同時に精神的に大きなダメージを負った試合だったのではないだろうか。

立ち上がりは両チームともにバタバタしていた。GKのキックミスや、DFの空振り。ピッチが滑りやすかったのも関係したのだが、開幕戦の硬さが感じられた。

その中で先に落ち着きを取り戻したのは鹿島だった。開始10分に得た右CK。遠藤康のボールをダビがマークする青山直晃に競り勝ってのヘディングシュート。甲府GK岡大生が鹿島の土居聖真に接触して倒れるという不運があったが、甲府にとってはあまりにもあっさりと先制点を献上した形だった。

ゲームの流れで見れば、甲府も互角の展開だった。チャンスを作り出したという意味では、鹿島以上だったかもしれない。11分のGKの正面をついた下田北斗のシュート。14分、21分と立て続けに阿部翔平が迎えたチャンス。このどれか1本が入っていたら、その後の展開は変わっていたかもしれない。ただ、これをやらせないのが鹿島サッカーの老練さだった。

日本代表も含め、失点をしたチームの選手がよく口にする言葉がある。

「流れのなかではやられていない」

チームとしての連係が成熟していないこの時期、この人が「そんなのは関係ない。1点は1点だ」と思っていたかは分からない。そのなかで、簡単に点を生み出す方法を知っていたのが、鹿島の小笠原満男だ。

どのチームでも、セットプレーに対する守備の決まりごとを作り、練習もしている。小笠原は、その待ち構える守備陣のはやる気持ちを逆手に取るのがじつにうまい。そして、鹿島の2点目は、甲府守備陣の予想を覆す左CKから生まれた。

先制点は、ゴール正面に通常のクロスを送る力勝負の右CKだった。それが布石になったのだろう。前半26分の小笠原の右CKは、甲府守備陣の意表を突くグラウンダーのボール。ペナルティーエリア外からフリーで走り込んだ遠藤にシュートを打たせたパスが、ゴールにつながった。

さらに後半2分の昌子源のJ初ゴールと、後半ロスタイムのダビの2点目を生んだ2本のFK。特に4点目のロングボールは、甲府守備陣が陣形を整える前に放たれた、いわゆる“マリーシア(ずる賢さ)"のキックだった。

リスタートから3点を演出。小笠原は「セットプレーは準備してきたが企業秘密。バリエーションはまだある」と話していた。この小笠原に限らず、中村俊輔(横浜F・マリノス)、遠藤保仁(ガンバ大阪)などは、キックの正確性はもちろんだが、守備陣の心理を読み、その裏をかくのがとてもうまい。ゴールが生まれた後に考えると、「なるほど、そういう意図があったのか」と分かるプレーが、ベテランといわれる選手たちが醸し出す奥深さだ。ベテランは、ただ長くサッカーをやっているだけではない。サッカーをよく知っている。

この試合で鹿島は、交代出場も加えて20歳前後の選手を6人も起用した。10代ですでにベテランの風格を備えていた柴崎岳は例外にしても、試合の展開によっては心理面でのコントロールが難しい状態に陥る可能性もあった。そのなかでの小笠原の存在感は絶大なものがあった。

「(サッカーは勢いのある)若い選手をそろえて送り出したら大丈夫かというと、大丈夫ではない。ベテランがアドバイスをしなければいけない」

試合後、鹿島のトニーニョ・セレーゾ監督は、こう語っていた。チームとしての若返りを図ろうとしている現在の鹿島には、ピッチ上のすばらしい教師がいる。それが小笠原であり、曽ケ端準、本山雅志といった選手なのだろう。

一方、シーズン開幕に向け、大雪のために地元で調整のできなかった甲府は気の毒だった。だが、セットプレーから4点も失う守備はいただけない。城福浩監督も「セットプレーだから、流れのなかから取られてないというつもりは毛頭ない。セットプレーもサッカーの一部」と語っていたが、今後修正されてくるはずだ。

確かにリズムよくパスをつないだコンビネーションのなかからのゴールは美しい。ただ、サッカーで生まれる得点の3分の1近くはセットプレー絡みというのも事実だ。守備にしても、攻撃にしても、セットプレーを大切にしないチームは、痛い目を見る。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている