日本ボクシング史に、新たな歴史が刻まれるかもしれない。

東洋太平洋ライトフライ級王者の井上尚弥(大橋)は4月6日、東京・大田区総合体育館で世界ボクシング評議会(WBC)同級チャンピオンのアドリアン・エルナンデス(メキシコ)に挑戦するが、まだデビュー6戦目。勝てば井岡一翔(井岡)の7戦目を抜き、日本選手では最速となる世界王座獲得となる。

アマチュア時代から抜群の才能を発揮してきた20歳。待望の舞台登場である。

高校生でアマ7冠を獲得、鳴り物入りでプロの世界に転じた。井上の最大の武器はスピード。左ジャブを的確に繰り出し、左右のコンビネーションをたたき込む。一打の威力はそれほどでもないが、切れ味鋭いパンチでKOを生み出してきた。

2012年10月、4回KO勝ちでデビュー。4戦目で日本王座、5戦目で東洋王座を手にするが、ともに国内最速タイ。この勢いで「記録男」は快挙達成をもくろんでいる。

3月5日、井上は4ラウンドのスパーリングを公開した。左ジャブを間断なく放ち、相手の動きをけん制。自分の距離から連打を決める得意のパターンは健在だ。

本人は「動きは少し悪かったが、コンディションはいい。本番まであと1カ月。スピードを磨いて調整していきます」と控え目に抱負を口にした。

この緊張感を保ち、体調をベストに仕上げれば世界は自然に近づいてくるような気がする。所属ジムの大橋秀行会長が「努力の天才」と評価する真摯な姿勢は変わらず、ヒーロー誕生の予感が現実味を帯びている。

王者エルナンデスは右のボクサーファイターで長身。メキシカンらしい打ち合いを得意とし、戦績は28勝(17KO)2敗1分け。KO率は楽に5割を超えている。

ただ、ガードの甘さが欠点。昨年8月、角谷淳志(金沢)の挑戦を受け、4回TKO勝ちを収めたものの、1回にはダウンを喫している。打撃戦には絶対の自信を持っているが、その弱点をうまく突けるかどうか。

井上に求められるのは「冷静さ」だろう。王者のラフな仕掛けに慌てることなく、自分のボクシングをキープすれば、自然に主導権を握れるはずだ。そして、切り札ともいえる絶品のカウンターを狙いたい。天性の勘の良さが大一番でも発揮されることへの期待は大きい。

「記録は破られるためにある」という。井上は、新たなページをめくることができるだろうか。(津江章二)