前年のリーグ戦の覇者とカップ王者が、新シーズンの到来を告げる。リーグ戦開幕の1週間前に行われるスーパーカップは、日本に限らず行われている恒例行事だ。

今年は2月22日にサンフレッチェ広島と横浜F・マリノスが国立競技場で戦ったわけだが、この催しをもう少しうまく活用できないものかと、いつも思う。確かに宣伝文句の通り「王者同士の戦い」だ。チームにとってはタイトルの一つに間違いないのだが、リーグ戦やカップ戦に比べれば、イベント的な色合いが濃い。勝つに越したことはないが、必ずしも「是が非でも」とならないのが、この一戦だ。

現在、日本で行われる富士ゼロックス・スーパーカップの原型は、イングランドのFAコミュニティー・シールドだ。本家の大会名は、2002年に外食産業がスポンサーについたことで現在のものとなったのだが、それ以前はチャリティー・シールドと呼ばれていた。1908年から始まったこの大会は、当初、読んで字のごとく慈善事業の寄付金を集める目的で行われていたのだ。

Jリーグは、大会方式は受け継いだ。だが、サッカーの母国が提案した精神は受け継がなかったようだ。残念だ。

もしJリーグが入場収入の一部でも、慈善事業のために使っていたら、サッカーに関心のない人たちでも、その行為に目を向けただろう。結果的には二次的なものとしても、Jリーグというものを世間の人に知らしめる効果的な広告になったはずだ。

海外のスポーツ選手は、チャリティーに関心が高い人が多いと聞く。日本でも個人的に、慈善活動を行っている選手が多いのは知っている。ただ、それがサッカーやスポーツのイメージアップにつながるのなら、目に見えた方がいい。ゼロックス・スーパーカップをチャリティー・シールドにするのは、いまからでも遅くないと思う。

昨年、どんなに好成績を収めようとも、シーズンの初めのチーム状態というのは、ふたを開けてみないと分からない。広島と横浜Mの試合を見ていると、勝敗を分けたのは仕上がりの差だろう。

両チームともに、Jリーグの開幕前にアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)があるので、他チームより早目のコンディション作りをしているはずだ。それでもチームとしての出来に差があった。

2年連続でリーグ制覇を果たし、チームとしての戦い方が確立している広島。動きは選手たちの体の中に染み込んでいる。一方で、横浜Mの昨年の好調さは、大黒柱の中村俊輔の出来に負うところが大きかった。裏返せば中村俊輔の動きが悪ければ、チームの戦闘力は確実に落ちるのだ。

スーパーカップでは、まだ冬眠から目覚めていない横浜Mに対し、早起きして全員の体が動く広島が走り勝ったという内容だった。

昨シーズン、リーグ最少失点の不動の3バック、塩谷司、千葉和彦、水本裕貴が小刻みにラインをコントロール。その前に位置するキャプテンマークを巻いた青山敏弘が恐ろしい勢いで、相手の司令塔・中村俊輔に襲いかかる。中盤での主導権を握れば、あとはゴールを奪うだけだ。

広島の怖さは一発の縦パスでゴールを奪う佐藤寿人が最前線にいるだけではない。この駆け引きの天才の後ろ、2シャドーの一角に、石原直樹という仕事人が控えているのだ。1トップの佐藤を追い越して最前線に飛び出したかと思うと、サイドに開いてチャンスメークもする。さらには体を張った守備も見せるマルチぶりが、とにかくチーム内では利いているのだ。

前半6分の先制点は、その石原が起点となった。右サイドでドゥトラのアタックにバランスを崩しながらも入れ替わり、グラウンダーのクロス。佐藤のビールキックのシュートは空振りに終わったが、それがGK榎本哲也を惑わせ、後ろから詰めた野津田岳人がプッシュした。

横浜Mもチャンスがなかったわけではない。17分には右サイドを斎藤学がドリブル突破。フリーの藤本淳吾にラストパスを通したが、これを藤本がシュートミス。ビックチャンスを逃しては、勝利は望めない。

毎年、シーズンオフに主力級を引き抜かれて、「大丈夫かな」と思わせる広島。しかし、2―0のスコア以上の内容だった一戦を見る限りでは、大きな問題はなさそうだ。それどころか、後半21分に野津田のスルーパスにタイミングを合わせ、DF中澤佑二を振り切って冷静にワンタッチゴールを決めた浅野拓磨も出現した。先制点の野津田とともに浅野も19歳。若い力が、確実に戦力として育ってきていることを考えると、今年も広島はやりそうだ。

一方、樋口靖洋監督が「フィジカルの部分で上げきれていなかった」と語った横浜M。調整不足には2週連続の大雪の影響があったのかもしれない。それでも中村俊輔は「年齢の高い選手が多いから、経験を生かす」と、敗戦をそれほどの問題ともとらえていない様子だった。

J1は3月1日開幕。本当の戦いは、そこから始まる。今年はどのチームが、みんなを驚かせるのだろう。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている