プロ野球は3月28日のセ、パ両リーグ同時開幕に向けて、オープン戦が本格化している。

昨年のプロ野球は高校出の阪神・藤浪晋太郎(大阪桐蔭)が二桁の10勝を挙げ、ヤクルト・小川泰弘(創価大)が16勝、楽天・則本昴大(三重中京大)が15勝で新人王を獲得するなど、新人投手の活躍が目立った。

則本は巨人との日本シリーズでも活躍して楽天の日本一に貢献したのは記憶に新しい。勢い、今年の新人投手たちの動向が注目される。

中でもドラフト会議で5球団が1位指名した楽天・松井裕樹(桐光学園)の左腕に注目が集まる。

2月23日、沖縄で行われた巨人とのオープン戦に先発登板し、2イニングを投げ無安打2奪三振の無難なデビューだった。私には、体付きと鋭い変化球を持ち味とするところは、西武や巨人などで活躍した同じ左腕投手だった工藤公康氏とダブって見える。

▽強心臓だった工藤氏

身長174センチの松井裕は、2012年夏の甲子園大会で今治西から連続10三振を含む22奪三振の大会記録を作り、一躍全国に知られた。

武器は鋭く落ちるスライダーである。昨年夏の神奈川大会準々決勝で横浜高に敗れた試合を見たが、切れのあるスライダーは威力十分で10三振を奪った。

176センチの工藤氏は、名古屋電気高(現愛工大名電高)3年、1981年夏の甲子園で長崎西高相手に、金属バットになって初めてという、史上18人目のノーヒットノーランをやってのけた。

武器は大きく割れるカーブだった。ベスト4止まりだった工藤氏に涙はなかったが、甲子園を逃した松井裕は号泣した。

どちらもふてぶてしい感じはするが、心を強くもてるかどうかで、今後のプロ人生が決まる。出る杭は打たれるが、出すぎた杭は打たれない。そう、実績を積めば誰も何も言わなくなるのがプロの世界でもある。

48歳まで投げ224勝を挙げた工藤氏も、1年目から1軍マウンドを踏んだが、その強心臓ぶりは有名だった。

▽酒で肝機能障害に

工藤氏のプロ入りをめぐっては、早々と社会人の熊谷組入りを表明した工藤氏を西武がドラフト6位で指名、獲得したことでプロ、アマの間で大きな騒ぎとなった。

入団時の騒動にも、この18歳は西武の入団会見で「騒動の間に悩んだりしたことはなかった」と言ってのけ、その後の活躍で入団時にもめた選手は大成しないというジンクスまでも打ち砕いてしまった。

プロ入り後は中継ぎ役だった工藤氏は、1年目1勝、2年目2勝だったが、3年目に入って勝てなくなった。

前にも当コラムで書いたが、原因は速球とカーブに加えて、投球の幅を広げようとスライダーを覚えたことで、持ち前のカーブが大きく曲がらなくなった。球団はシーズン途中に単身米国へ送り、そこでカーブを再生させた。

工藤氏は後に「米国の選手は決して小手先で投げようとしない。チェンジアップを投げるときも全身を使う」と話していた。4年目8勝、そして86年、広島と史上初の8試合を戦った日本シリーズで、工藤氏はかつての西鉄・稲尾和久のような投打にわたる大車輪の活躍でMVPとなり、西武は黄金時代を迎えたのである。

ただ、この2年後あたりから、不調に見舞われたこともあり「坊や」というニックネームからは想像もできない半端ではない酒浸りの生活を送るようになり、肝機能障害を発症して選手生命の危機に陥った。

結婚を機に立ち直るのだが、それから健康管理に目覚め、48歳まで投げることになるのだから、人生は分からないものだ。

▽自分との戦いに勝てるか

松井裕は今までと違う世界に、多少の戸惑いを感じているとも聞く。当然だろう。しかし、マウンドに立てば、そこは「自分だけの居場所」となる。

オープン戦で実績を重ねれば、自信が生まれる。ベテランの楽天・星野仙一監督のことだから、しっかり精神面を見ながら指導していくことになるだろうが、要は自分自身との戦いである。

今年のドラフト1位組は社会人出身が5選手、大学が3選手、そして松井裕のような高校出身が4選手。こうした「ドラ1組」の動向に目がいってしまうのは、アマ球界頼みの日本ならではのものかもしれない。

メジャーではキャンプ、オープン戦で大学や高校出身選手が注目されることはまずないからだ。日本と違って育成システムが出来上がっていて、新人たちはまずマイナーでみっちり鍛えられるからだ。

そうした日米プロ野球の違いはまたの機会に取り上げたいが、現在のプロ野球に指摘しておきたいのは、各球団がファームをおろそかにしていないかという点である。

2軍を1軍選手の調整の場だと思っていないだろうか。また高校、大学野球では投手は育てられても打者を育てるのは難しい。特に長距離打者の育成には時間がかかる。それには2軍戦の充実が欠かせないし、米国への留学などは効果があると思っている。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆