「統一球問題」で辞任したプロ野球の加藤良三前コミッショナーの後任に、弁護士の熊崎勝彦氏が1月1日付で就任した。現在のコミッショナー制度ができた1951年の福井盛太氏から数えて13人目のコミッショナーとなった。71歳。元東京地検特捜部長。

プロ野球界とは2005年からコミッショナー顧問となって以来の縁があった。新コミッショナーの選任をめぐってはセ、パ両リーグで意見が分かれたそうだ。セが「球界の番人」として法曹界出身の熊崎氏を推薦したのに対して、パは「プロ野球界全体の収益拡大」を推し進めるトップ、つまりビジネスに精通した人物に固執したといわれている。

最後までそれを強硬に主張したのが楽天だった。新コミッショナー決定への落としどころは、コミッショナーの下に2人ほどの常勤の理事を置くことだったようだ。

一人はビジネス感覚を持った人物であり、片方はプロ野球経験者ということになるのだろうか。いずれにしても熊崎コミッショナーのリーダーシップは不可欠となる。中でも球界トップとして日本プロ野球の方向性を明確に発信することも大きな仕事である。

新コミッショナーは新年の事務局職員に対する挨拶で「プロ野球にはファンの厳しい目が注がれている」と訓示した。プロ野球はファンあってのものだと言っているのだろう。しかし、昨年12月の就任記者会見や新年の職員挨拶でファンへのメッセージに物足りなさを感じたのは、私だけではないだろう。

▽鉄人・衣笠の名前が

常勤の理事候補には既に国民栄誉賞をもらった衣笠祥雄氏(元広島)の名前が挙がっている。衣笠氏が就任すればプロ野球経験者として小久保裕樹監督の「侍ジャパン」を側面からバックアップすることになる。一方ビジネス面をサポートする方は人選中で3月ごろまでに決まるそうだ。

この新体制が何を目指すのか。プロスポーツの世界は「チームビジネス」と「リーグビジネス」の両輪で成り立っている。野球で言えば、メジャーリーグ(MLB)は「リーグビジネス」を拡充することで大きく成長しているのに対して、日本はチーム中心のビジネスに委ねられている。

日本野球機構(NPB)の主な主催事業はオールスター戦と日本シリーズぐらいで、機構の運営費は各球団からの1億円の拠出金に頼っている。今回、「侍ジャパン」をテコにして事業会社設立を視野に「リーグビジネス」に乗り出そうとしているが、12球団が一緒になって稼ぐ仕組みは、日本のプロ野球にはない。新体制がここにわずかでも風穴を開けられたら、大したものだと思うが至難の業だろう。

▽温故知新

熊崎コミッショナーは構造改革を強調している。加藤前コミッショナー時代、コミッショナーと幹部職員の連携のなさが「統一球問題」を引き起こした反省からだろう。「職員は一人で抱え込まずに相談してほしい」と呼び掛けているが、ここはやはり大胆な組織改革を断行すべきだと思う。

下からの意見を吸い上げる仕組みを作り、決断、実行に移す。第7代の下田武三コミッショナー時代のコミッショナー事務局は総勢8人の小所帯で、セ・パ事務局を統合した現在とは比べものにならない規模だが、見習うことは多いと思う。

下田氏は週一回の「事務局会議」に職員全員の出席を求め、プロ野球界の課題を聞くことに務め、問題の早期着手につなげた。一例だが、当時問題になった「飛びすぎるボール」に対して、初めて科学的根拠に基づく「反発係数」を割り出し、現在も使われている基準を作った。

今なら、事務局内で問題ごとにタスクフォースのようなチームを作り対処する。こうした専門家集団を育てることはやってこなかったのだが、そのための人員を増やすことはプロ野球全体にとって利益になるのだ。各球団の利益を犯さない範囲の「リーグビジネス」を研究するチームがあってもいいと思う。このぐらいのことはぜひやってもらいたい。

▽7イニング野球は?

2020年東京オリンピックで野球・ソフトボールの実施競技復活が現実味を帯びてきている。しかし、長時間試合がネックとなれば、野球に大革命が起こるかも知れない。9イニング制ではなく7イニング制もしくは試合時間制限などの案が出てくることも考えておかなければならない。

その時“総本山"プロ野球がどう対応するか。DH制をセは採用しなくても面白いのか。くじ引きという、妥協の産物である現在のドラフト制度を変える必要はないのか。球団に任していては絶対解決しない問題が山積している。「プロ野球をもっと面白くする」方策を積極的に模索すべきである。

サッカーJリーグの大東和美チェアマンが退任し、報道によれば新たなトップは50歳代の初の企業人が就任するといわれている。意味するところは、新しい分野からの新しい発想でJリーグを発展させたいということだろう。

プロ野球の今回のコミッショナー選びで、こんなうわさが流れた。中日球団が落合博満GMをコミッショナーに推薦したというのだ。当の落合GMは自主トレ期間中に選手を指導したと「野球協約違反」を問われている最中だが、正直、面白いと思った。常にプロ野球界で先頭を切ってやってきた男だし、大胆な改革をやれそうな期待を持たせる。余談だが、落合GMは「野球協約」を熟読しているそうである。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆