打席に入ると、バットの先を見つめ、投手側にヘッドを倒す。そして腰をひねって、タイミングを取り始める。何かのおまじないのような一連の動き。構える位置やそこに至るまでの所作にはそれぞれ意味があり、バットを傾ける時は「手首をただ返すのではなく、ヘッドの重みで」。独特な打撃論を持つプロ野球ソフトバンクの長谷川勇也が今季、3割4分1厘でパ・リーグ首位打者と198本で最多安打のタイトルを初めて獲得した。

2009年に打率3割1分2厘を残したものの、その後の3年間は3割に届かなかった。13年シーズンに向け、打撃フォームを大幅に変えた。構えてからあまり動かず、投手に合わせて動かしていたものから、腕を動かしながらタイミングを取るようにした。「昔の打者は動きの中で間合いをつけるものが多かった」と阪神などで活躍した岡田彰布を参考にしたという。動きをつけることで自分からボールを呼び込めるようになり、安打にできるポイントの幅が広がった。

今季は序盤からコンスタントに安打を重ねた。深刻な不振にも陥らなかった。ただ、打撃フォームは少しずつ変わっていた。「バッティングは生き物」と言う。ずっと同じだと感覚が鈍る。だからこそ「その時々の変化を見極められるか」が大事になる。日々の変化を読み取ることができたのは、猛練習のたまものだ。

誰もが練習の虫と認める。本拠地での試合後は調整を欠かさない。打席での感覚と試合映像を比べ、そのギャップを埋めるために素振りやティー打撃を行う。3安打した日でも、無安打の日でも姿勢は変わらない。「安打が出ているから素振りしないでいい、では続かない。こういう形で挑もう、という気持ちができるまで練習する」。球場を去るころにはチームメートのほとんどがすでに帰っている。遠征先宿舎でも頭の片隅にはいつも「野球」がある。眠りに就こうと入ったベッドで打撃へのヒントがひらめけば、起きてバットを手に取るほどだった。

序盤、中盤、終盤と順調に安打数を伸ばした。年間200安打が視野に入った。両リーグ合わせても過去5人しか達成していない偉業まで、残り3試合で4本。その試合で第2打席までに2安打した。達成するだろうと思った。だがその後の計11打席で快音は響かなかった。2本足らなかった。シーズン途中からしっかりと見据えた目標に届かなかった。「悔しい」と率直に言った。だが「安打を打つごとに、観客が喜んでくれる。そういう反応が幸せだった」と、プロ野球選手で今季ただ一人しか味わうことのできないファンの反応を満喫した。

バッティングの楽しさを聞いた。「いい結果が出るのが楽しいのではない」と答えた。昨年よりも打撃面で成長した分、直面する課題も以前より難しくなった。その高くなったハードルを「クリアして、結果が出るのが楽しい」と続けた。来季は、「200-2」の「2本」が最高のハードルとなるはず。それを乗り越えた時、どのくらい楽しかったか、また聞いてみたい。

長谷川 勇也(はせがわ・ゆうや)山形・酒田南高から専大を経て、2007年にソフトバンク入団。13年シーズンはパ・リーグの首位打者、最多安打のタイトルに加え、外野手としてベストナインにも選出。1984年生まれ、山形県出身。

岡田 康幹(おかだ・やすき)2010年に共同通信入社。本社運動部を経て、同年12月から福岡運動部。プロ野球ソフトバンク担当。1985年生まれ、東京都文京区出身。