通常は2人いるセンターを1人減らして、代わりにアタッカーを3人から4人に増やす―。まさに「常識」を打ち破る新戦術だった。17日まで行われたバレーボールのワールドグランドチャンピオンズカップ女子大会で、日本がミドルブロッカー(MB)とも呼ばれるセンターを1人にする独自の布陣「MB1」を駆使して3位になった。「そもそもミドルブロッカーは2人と、誰が決めたんや、と。日本のミドルは点が取れない。それなら代わりにサイド(アタッカー)を入れた方がいいのではないか、と思った」。真鍋政義監督の固定概念にとらわれない柔軟な発想が、「世界のどこの国もやっていないはず」という斬新な戦法を生み出した。

長身のセンターを1人に減らすと、ブロック力が落ちるというリスクはあるが、これまでは使い切れなかった能力の高いアタッカーを増やせることで攻撃力は増す。ことしの日本のアタッカー陣は木村沙織(ガラタサライ)江畑幸子(日立)新鍋理沙(久光製薬)迫田さおり(東レ)のロンドン五輪代表勢に、伸び盛りの石井優希、長岡望悠(以上久光製薬)らも加わって層が厚くなった。センターは大友愛や荒木絵里香ら五輪の主力が引退して一気に手薄になった。MB1採用は、そんなチーム状況にも即したものだった。

主にセンターの代わりに起用されたのは高い得点能力を誇る迫田だった。滞空時間の長い跳躍から放つバックアタックはこれまでも一級品との評価を得てきたが、サーブレシーブに難があるため、なかなか定位置を獲得しきれなかった。MB1では、前衛にいる時も後ろに下がってからバックアタックを放つという独特の動きで点を量産し、持ち味を存分に発揮した。センターと同じ動きが要求されるブロックも懸命にこなし、監督も「よくやっていると思う」と一定の評価を与えた。

真鍋監督の豊かな発想力には、たびたび驚かされてきた。28年ぶりとなる銅メダルに導いた昨年のロンドン五輪。大会直前に、セッター2人を除く10選手の背番号を突如、変更した。データ分析が進んだバレーボールでは背番号で相手選手を識別することが多い。それを変えることで、相手を混乱に陥れようという狙いだった。後日、監督から聞いた話だが、実は五輪前には背番号変更だけでなく、別のアイディアもあったという。「選手を集めて、大会中の2週間だけ、全員同じ髪形にしてくれ、と頼んだんだけどね…」。さすがにこれは選手たちが難色を示したそうで実現はしなかったが、「勝つためには何でもやる」という指揮官の執念を表すエピソードだ。

2009年の就任以来、真鍋監督の口からは「常識の延長戦上には、常識しかない」「いずれは、ジャパンオリジナルをつくる」「体格で劣る日本が世界と同じことをやっていても勝てない」といった言葉を何度も聞いてきた。その思考は、「回転レシーブ」で1964年東京五輪を制した「東洋の魔女」や、速攻や時間差攻撃で72年ミュンヘン五輪金メダルに輝いた男子など、革新的な戦術を編み出して世界を制したかつての日本バレーの系譜を受け継いでいる。来年は「MB1」をさらに進化させるのか、あるいはセンター0(ゼロ)の「MB0」もあるのか。目標とするリオデジャネイロ五輪の金メダルへ、進化を続ける真鍋ジャパンから目が離せそうにない。

長谷川大輔 1980年、千葉県生まれ。2003年共同通信社入社。大阪、広島でプロ野球を取材し、09年から東京で水泳、バレーボール、バスケットボールなどを担当。