プロ野球のオリックスは今季も下位に低迷した。開幕前は糸井や馬原、平野恵ら大型補強を敢行。キャンプ中の宮内オーナーは「優勝してしまうんです」とご機嫌だったが、結果は最下位を抜け出すのがやっと。チーム防御率はリーグ1位なのに得点は12球団最低。選手名鑑にはいかにも打ちそうな面々が並ぶが、ここぞの一本が最後まで欠けた。

そんな中で獅子奮迅の働きをみせたのがエースの金子千尋だった。キャンプ中に利き腕を負傷し、オープン戦期間はコンディショニングに専念。それが“ぶっつけ本番"で開幕投手を務めると、1年間ローテーションを守り続けて15勝を挙げ、楽天の田中を抑えて奪三振王のタイトルを手にした。さらに先発完投型の投手に贈られる沢村賞の選考基準七つをすべてクリア。24勝無敗と別格の田中がいて受賞はならなかったが、「正直ここまで投げられるとは思っていなかった。最多勝を取った年(2010年、17勝)よりもいい」と振り返る充実ぶりだった。

2月には、こんな1年になると想像すらできなかった。3季連続で満足なキャンプを送れず、オープン戦期間から1軍に合流していたものの、実戦登板のないまま3月29日の開幕が迫った。担当記者が一様に驚いたのは、開幕カードのロッテ戦に向けて遠征準備をしていた京セラドームでの光景だった。千葉行きの荷物にエースのバッグがある。まさか投げるのか、まさかね…。と思っていたら開幕投手。本人ですら「びっくりした」というサプライズ起用に8回1失点の好投で応え、周囲の不安を一蹴してみせた。

その後も「例年以上に体を気遣いながら過ごした」とケアを怠らず、順調に勝ち星を伸ばした。特筆すべきは両リーグでただ一人2桁完投に到達した鉄腕ぶりだ。自らを「投げたがり」と表現し、なるべくブルペン(投手陣)を休ませようとする姿勢からは、エースとしての強い自覚が感じられた。

責任感はランニングもキャッチボールも決して手を抜かない練習態度ににじむ。練習課題をやりきることは、投球動作でリリースまで力を抜かないこと、試合で勝利が決まるまで気を抜かないことと同様に当たり前なのだと平然という。「普段の練習で癖になっていることが試合に出ると思っているから」。口では多くの選手がそう言うが、実践する者はごく一握りだ。その姿勢を若手はまねてほしいと球団関係者は口をそろえるが、そうしたどん欲な存在は見当たらない。この辺りがオリックスの先発が苦しいままになっている遠因だと思う。的外れだろうか。

話を戻すと、実は完投10のうち6度も黒星が付いている。本人は「勝ちにつながる投球ができなかった」と反省したが、実際は打線が見殺しにしたようなものだ。金子が投げた時の平均得点はわずかに3で、田中の半分しか援護をもらえなかった。「来年こそクライマックスシリーズ(CS)に出て、まだやったことのない優勝をしたい」。来季を順調に過ごせば国内フリーエージェント(FA)の権利を手にする。この右腕の熱い思いに打線が応えなければ、14年のオフが騒がしくなることだって考えられる。

森安楽人(もりやす・らくと)大阪府豊中市出身。2008年共同通信社入社。本社運動部、大阪運動部から大阪社会部を経て12年2月、大阪運動部に復帰。バドミントンのほかJリーグの広島、ゴルフなどをカバーし今季からオリックス担当。