先日、米国映画の「42」を見た。邦題は「42 世界を変えた男」。黒人選手の大リーガー第1号となったジャッキー・ロビンソン選手の実話を映画化したものである。

野球映画というよりは、人種差別と闘った男の物語であり、ロビンソンを大リーグに引き上げた球団会長の先駆的な決断に、もう一つのスポットを当てている。

米野球映画では「フィールド・オブ・ドリームス」のケビン・コスナーや「メジャー・リーグ」のチャーリー・シーン、「マネー・ボール」のブラッド・ピット、「人生の特等席」のクリント・イーストウッドなど有名な俳優が主役を演じているが、「42」はハリソン・フォードが球団会長役をやっている。

▽4月15日は全選手が「42」

1947年(昭和22年)。第二次世界大戦が終わった直後、当時はニューヨークのブルックリンに本拠地があったドジャースが、傘下のマイナーチームの選手として2年前に契約していたロビンソン選手と大リーグ契約を結んだ。

人種隔離法の撤廃運動が起こる8年も前の出来事で、米国中がひっくり返るような騒ぎとなったことを再現している。米国民、スタンドのファン、チームメートとも闘う、四面楚歌のロビンソンの味方は球団会長と奥さんぐらい。

会長は「やり返さない勇気を持て」と言い続けるが、ロビンソンが身の危険にさらされながら「切れる」ことは本当になかったそうだ。一度だけベンチ裏の通路でバットを壁にたたきつけて悔しがるシーンは映画用だというから、忍耐強いなんてものではない。

黒人選手に大リーグへの道を開いたロビンソンが着けていた背番号が「42」。この「42」は大リーグではもちろん、マイナー・リーグや果てはアマチュアチームに至るまで永久欠番となっている。

そして、大リーグではロビンソンが初めて大リーグでプレーした4月15日を記念して、全選手が「42」を着けて試合をする。イチローも黒田博樹もダルビッシュ有も。

最近は日本の球団でも昔のユニホームなどでプレーする「オールドタイム」を再現するイベントが盛んになっているが「ロビンソン・デー」のような大掛かりなものに発展するものはなさそうだ。

▽新ポスティング制合意には時間が

そんな大リーグが注目しているのが楽天・田中将大である。今季の田中は24連勝(1セーブ)と負け知らずで、巨人との日本シリーズ第6戦で敗戦投手となったものの、楽天の日本一を決めた第7戦で胴上げ投手となるなど、球史の残る成績を挙げた。大リーグも「今オフの目玉の一つ」と高い評価で、田中の交渉権をどの球団が獲得するかに注目が集まっていた。14日には、プロ野球選手会がポスティングシステム(入札制度)の新制度を2年間限定で受諾すると表明したことで一件落着かと思われたが、大リーグが急きょ新制度を撤回し、改めて提示し直すという。解決まで時間がかかることになった。

ポスティングシステムとは、フリーエージェント(FA)ではない日本選手がメジャーへ行くための仕組みで、メジャー球団の中で最高金額を入札したチームに交渉権が与えられる。FA選手でもなかった近鉄・野茂英雄やロッテ・伊良部秀輝が米国行きを実現させた際にもめたことから、メジャー球団間での獲得機会を平等にするために考え出された制度である。

松坂大輔(西武―レッドソックス)やダルビッシュ(日本ハム―レンジャーズ)が年俸を含めおよそ100億円で入札され大きな話題となった。球団にも50億円ほどが入った。

逆に楽天・岩隈久志と西武・中島裕之が2年続けて落札した球団と交渉が決裂した。こうした選手側の不利益にプロ野球選手会が「不平等条約」解消を訴えていたが、日本野球機構(NPB)がメジャー側の厚い壁にはね返されていた。

ポスティング制度は2年に一回見直されているが、選手会は11月に入って「今度の新制度はメリットがない。締結しないでほしい」とNPBに申し入れていたのだ。

▽しっかりしてほしいNPB

昨年、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での利益配分をめぐって紛糾したのは記憶に新しいが、NPBはいつもメジャーの言いなりになっている印象だ。もっと強気になってもいいと思う。

というのも日本人のトップ選手はメジャー球団にとっては貴重な戦力になるし、メジャー全体にとっても貴重な映像コンテンツとなり日本のお茶の間に「マー君の投げる姿」を提供できる。それは日本向け放映権料にはね返ることになる。

NPBにとってスター選手を次から次へと持っていかれるのは痛い。しかし、今回は田中をメジャーへ送り出そうとしているファンが実に多い。田中の人柄からくるのだろうか。

でも、NPBは問題が起こる度に抜本的解決を先送りにしてきた。そこに危機感を感じていて、発信し続けているのがプロ野球選手会である。時に自らが身を切ってもやる覚悟がないと、将来の展望は開けない。映画「42」はそんなことも教えてくれる。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆