「まさか」と思った。第7戦までもつれ込んだ楽天―巨人の日本シリーズで、前日の第6戦で160球を投げ、今年初めて負けが付いた田中将大が九回に登板して胴上げ投手となった。そんな起用を見ながら「精神野球」の星野仙一監督らしいなあ、と思うと同時に、思い浮かんだことが二つあった。

▽後世に残るドラマ

まず、2007年の中日―日本ハムの日本シリーズ第5戦。中日・落合博満監督が八回まで一人の走者も許さないパーフェクト・ピッチングを続けていた山井大介を交代させて日本一になった試合。日本シリーズ史上初の快挙を目の前にして「勝つため」とはいえ、その非情なまでの采配に賛否が渦巻いた。今回の田中起用は対極にあると思った。

もう一つは、つい先日他界した、星野監督が師と仰ぐ巨人V9監督の川上哲治さんなら絶対にやらなかっただろうということ。勝つための最善策からすれば、2番手の則本昴大が今シリーズで巨人を翻弄しており、代える要素はないからだ。実際に田中は2安打され一発出れば同点のピンチを招いていた。

楽天ファンが祈るような気持ちで田中の登板を見ていただけに、本当に勝ててよかったと思う。かつての西鉄・稲尾和久や南海・杉浦忠が日本シリーズで連投して4勝したようなドラマが後世に残るし、人間模様を描き出していて面白いといえる。2013年のプロ野球は田中将大を抜きに語れないのである。その「マー君」がメジャーに行く。これも、プロ野球が置かれている現実である。

▽難しくなってきた連覇

ペナントレースを独走した巨人は投打とも低調で、これが敗因だった。ただ、巨人は川上さんの9年連続日本一以来、連覇をしていない。

日本一に向けて格好の材料と思えたが、勝負に対する淡白さというか、なりふり構わない貪欲さはなかった。最近の巨人の強さはデータ重視にあるともいわれているが、低めの変化球に手を出しては凡退する繰り返しだった。どうしたのだろう。

そういえば、1992年の西武の3連覇を最後に日本シリーズでの連覇はない。巨人のV9以後では、上田利治監督の阪急の3連覇、古葉竹識監督の広島の2連覇、西武は広岡達朗監督で2連覇、森祇晶監督での3連覇が2度ある。

日本シリーズのような短期戦は監督の手腕に負うところが大きいが、各球団の戦力に差がなくなってきているのも要因だろう。ここ20年でセとパの球団が10度で日本一を分け合っている。

2003年からパのチームが4年連続優勝したことでも分かるが、ダルビッシュや田中のように、ドラフト制度でパにも有力選手が入るようになったことは大きいと思う。完全ウエーバーにすれば、低迷するDeNAやオリックスだって浮上してくるだろう。

▽1リーグでは誕生しなかった楽天

楽天は球団を持って9年目でリーグを制し、そして日本一になった。その第6戦が行われた11月2日は「東北楽天ゴールデンイーグルス」の誕生日だった。2004年は近鉄・オリックスの合併に端を発した球界再編問題で揺れた一年だった。

巨人を中心として1リーグ構想が浮上した。人気面で劣るパ各球団は巨人に追随することで1リーグ10球団が現実のものとなろうとしていた。これに危機感を抱いたプロ野球選手会が史上初めてのストライキ決行で対抗。これをファンが後押しした。

ライブドアや楽天のIT企業がプロ野球への参入を表明したことから、「2リーグ制」存続が決まった。ただ、新球団楽天は近鉄やオリックスの“残り選手"が中心で、チーム強化では苦労した。

楽天の成功はプロ野球界にとって意義深いものだ。楽天は仙台市を中心に東北をフランチャイズにしており、福岡市のソフトバンク、札幌市の日本ハムといずれも地方で熱狂的に迎えられている。地盤沈下がささやかれるプロ野球人気で一つの方向性を示すもので、「地域対抗戦」の様相がもっと色濃くなれば、日本人の好みにも合う。

特に今年の日本シリーズは東日本大震災で疲れきった人々がひと時の開放感や喜びに浸れる場となった。

2年前の4月に楽天主将の嶋基宏が訴えた「見せましょう野球の底力、見せましょう野球選手の底力、見せましょう野球ファンの底力、頑張ろう東北」を思い出した人も多かっただろう。

プロ野球の存在感を実感できる、こうした場にプロ野球コミッショナーがいなかったのは残念としか言いようがない。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆