ロンドン五輪ボクシング男子金メダリスト、村田諒太(三迫)が注目のプロデビュー戦を圧倒的な内容の白星で飾った。8月25日、ノンタイトル6回戦とはいえ対戦した東洋太平洋の現役王者、柴田明雄(ワタナベ)をねじ伏せた。右ストレートを軸にした、潜在能力が詰まった2回2分24秒のTKOは、今日まで日本勢が制した最重量階級のミドル級では竹原慎二以来となる世界王座へ大きな可能性を感じさせた。

五輪での実績があるものの、勝手が違うプロ初戦でKOはさすがに難しいのでは、との見立ては鮮やかに覆された。1回に右でダウンを奪うと、後は後退を繰り返す柴田を2回に連打で仕留めた。試合中には笑顔すら見せた。「心理戦でやっていただけで、はなから余裕があったわけではない」と明かした。それでもデビュー戦でいきなり心理戦を仕掛けられること自体が強心臓ぶりを物語っている。

同じ73キロ契約で計量をパスした選手と思えないほど一発の重さの違いもロープ越しから伝わった。柴田が村田のパンチを浴びるたびに顔が歪むのに対し、村田は柴田のボディーブローをもらおうが、構わず前進。試合前の公開練習で見せた、上体の動きで攻撃をかわすウィービングなども必要ないとばかりに、両拳を上げてブロックするアマチュア時代のスタイルで攻め続けた。それだけ両者にはフィジカルの能力に歴然たる差があった。

デビュー前から破格の待遇が続く。米興行大手のトップランク社と契約し、練習も米ラスベガスで行うなど、これまでの日本の常識では考えられない環境で拳を磨いた。トップランク社を経営するボブ・アラム氏は世界ヘビー級王者のムハマド・アリ(米国)やマニー・パッキャオ(フィリピン)らを手掛けたことで知られる。そのアラム氏が来日してプロとしての第一歩を見届けたことからも村田にかける本気度がうかがえる。

日本ランキングでは初めてデビューから1試合のみの成績でミドル級1位にランクされた。「大変光栄です。ただもっと上の価値のあるランキングに入れるよう頑張ります」という談話には頂点のみを見据える強い意志が垣間見えた。東洋太平洋ランキングで同級1位、世界ボクシング評議会(WBC)でも19位に入った。

層の厚い中重量級で世界のベルトを巻くことは容易ではない。ミドル級でも、世界ボクシング協会(WBA)防衛戦で元WBAスーパーウエルター級暫定王者の石田順裕(グリーンツダ)を一蹴したゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)を筆頭に強豪が居並ぶ。村田はゴロフキンらの名を挙げて「今勝てるかというと、そうでないのは分かっている」と冷静に立ち位置を認めながら「今勝てないだけで、将来的に勝てないと思ってやってるわけではない」と自信をにじませた。

次戦は12月の予定。村田を全面的にサポートする帝拳ジムの本田明彦会長は日本ボクシング界では初めてとなる金メダリストの世界王者誕生へ、「全く慌てる必要はない」とじっくり育成する方針を掲げた。1996年アトランタ五輪で銅メダルに輝き、いまだプロでは無敗のフロイド・メイウェザー(米国)が初めて世界王座に就いたのは18戦目で、92年バルセロナ五輪優勝者で元6階級王者のオスカー・デラホーヤ(米国)は12戦目だった。着実に段階を踏んで世界を目指す、金の卵の成長を見守りたい。

木村 督士(きむら・ただし)1979年生まれ。大阪府出身。2005年共同通信社入社。大阪運動部を経て10年12月から本社運動部でボクシング、大相撲をはじめ様々な競技を担当。