ことしの夏の甲子園で痛ましい出来事があった。2回戦の木更津総合(千葉)―西脇工(兵庫)で、木更津総合の先発、千葉投手が打者1人に投げただけで右肩痛により降板した。チームは勝ったが次の試合でも投げることはできなかった。投手には肩、肘の故障の危険がつきまとう。選手の健康を守るため、大会運営の抜本的な改革を検討してほしい。

日程がタイトな高校野球では、しばしば投手への負担の大きさが問題視される。昨秋に右肩を痛めたという千葉投手は、県大会の5回戦で完投し、中2日の準決勝で延長13回を完投。さらに翌日の決勝で完投し、甲子園での1回戦も完投した。故障明けの投手がこれほど投げまくるのは日本の高校野球ぐらいだろう。今春の選抜大会で、済美(愛媛)の安楽投手が計772球を投げ物議を醸したのも、記憶に新しい。

甲子園では1993年の夏から、大会前に投手の肩、肘の関節機能検査が行われているが、投球禁止の措置が取られたことはない。以前取材した大会で、ある故障明けの選手に「検査結果は大丈夫だったの?」と聞いたところ、「『投げるなとは言えないから』と言われた」という答えが返ってきた。はたしてけが防止に役立っているのか。ことしの夏は準決勝の前に休養日が置かれたが、優勝した前橋育英(群馬)の高橋投手は大会終盤の5日間で4試合を投げ、うち3試合で完投した。今回の日程変更も、負担軽減の実効性は疑わしい。

負けたら終わりのトーナメント。監督はどうしても、力のあるエースに頼りがちになるだろう。「無理をしてでも投げたい」と言う投手も多いはずだ。だからこそ、運営側が歯止めをかける必要がある。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のように、球数や登板間隔にルールで規制をかけるのが望ましいと思う。その上で、複数の投手を併用するスタイルを徹底させるべきだ。

熱中症対策も課題だ。今大会では浦和学院(埼玉)の小島投手、常総学院(茨城)の飯田投手が、九回に脚がつって降板した。2人とも、交代の前に一度は続投した。熱中症による脱水症状が疑われる状況であり、危険な行為と言わざるを得ない。これにも運営側がブレーキをかけてほしい。近年の酷暑を考えると、日中の最も暑い時間帯を避けて試合を行う工夫も必要だと思う。日程の消化が難しくなるのは事実だが、大会進行の都合と選手の健康は天秤にかけられるものではない。

体にむち打ってエースが投げ続ける姿に、胸を打たれる人は多いだろう。だが、「熱投何百球!」というようなたたえ方には、危うさを感じてしまう。故障のリスクも、熱中症のリスクも、可能な限り避けるべきだ。

児矢野雄介(こやの・ゆうすけ)2003年共同通信入社。高知支局を経て、05年から運動部で主にプロ野球を取材。栃木県出身。