「本当に良いものというのは、大切に使えば長く使えるよ」

昔、年長者からこのような言葉をよく聞かされた。そして、使い捨ての時代が終わった現在こそ、この言葉を思い出す必要があるのかもしれない。

Jリーグの創設期だった1990年代前半、ピッチには現在では信じられないようなビッグネームが並んだ。

リネカー(1986年大会/イングランド/名古屋グランパス)、スキラッチ(1990年大会/イタリア/ジュビロ磐田)、ストイチコフ(1994年大会/ブルガリア/柏レイソル)と、ワールドカップ(W杯)の歴代得点王が3人も存在したリーグ。近年の記憶しか持っていない人には、想像のできない豪華さだろう。

確かに多くの外国籍助っ人が、現在の日本サッカーの土台を築くために多大な好影響を与えてくれたことは疑いない。その筆頭がジーコであり、J助っ人第2世代の現役のセレソンたち。ドゥンガ(ジュビロ磐田)、ジョルジーニョ、レオナルド(鹿島アントラーズ)、ジーニョ、サンパイオ(横浜フリューゲルス)ら、Jとカナリア色のユニホームを交互に着た選手たち。さらにストイコビッチ(名古屋グランパス)も含めた真の名手は、現在であったならば間違いなく欧州のビッグクラブで活躍していただろう。

一方で、ネームバリューはあるものの、プレー面に関しては必ずしも年俸に見合う活躍をしたとはいえない選手もいたことは確かだ。だから一時のJリーグは、他国から「年金リーグ」とやゆされることもあった。ある意味で金満さを前面に押し出した近年の中国のスーパーリーグと共通するものがある。

現在のJリーグの外国籍選手を見ると、かつてのようなお飾り的な選手は見当たらない。各クラブの懐事情もあるのだろうが、限られた予算のなかで純粋に戦力として、しかも日本人選手との差異を生み出す選手を獲得しているように思える。

さすがに「グレート」と呼べる選手にはお目にかかれなくなった。それでもベガルタ仙台のウイルソン、ヴァンフォーレ甲府のパトリック、アルビレックス新潟のレオ・シルバら、勤勉でチームに大きな影響を与えている外国籍選手は数多くいる。

中でも、個人的にこの人はチームの象徴に近いのではないかと思える外国籍選手が、FC東京のルーカスだ。FC東京といえば「キング・オブ・トーキョー」と呼ばれ、サポーターにいまなお愛され続けるアマラオが有名だが、ルーカスもその域に近づいているのではと思わされる。

現在34歳。9月28日のアウェーでの大宮アルディージャ戦は、まさにそのちょっと歳のいったルーカスの独壇場だった。前半7分に左サイドの長谷川アーリアジャスールの折り返しを右足インサイドでとらえてのダイレクトシュートによる先制点。大宮に1―2と逆転を許した前半ロスタイムには、東慶悟の左CKをファーポストからヘッドで合わせて同点ゴール。さらに後半21分には太田宏介のシュート気味のボールを巧みなトラップからの右足つま先で突いて3連続ゴール。自身J1での初めてのハットトリックを飾った。

本来は「背番号9」のポジション、センターフォワードにこだわりを持っていたという。ところが2004年からFC東京で4シーズンを過ごした後、ガンバ大阪に移籍。そこでは中盤で起用されることも多く、結果的にルーカスはプレーの幅を広げたといっていいだろう。

この日の得点場面は、まさに彼のプレーの多様性を見せつけたといっていい。中盤の右サイドからDFの視界を外してフリーのポジションをとっての1点目は、サイドアタッカーのもの。さらにズラタンのマークを外した2点目のヘッド、スペースと時間のないゴール前での反転からのトーキックによるシュートは、生粋のストライカーにしか成し得ない特異な技術だった。

2011年にブラジルに帰国し、一時は現役から引退した形だった。その心が動いたのは、J2に降格した古巣FC東京からの、助けを求めるオファーだった。調子の上がらないチームに2011年シーズン途中で加わったルーカスは、23試合に出場し9得点を挙げてJ1復帰の原動力に。さらに昨シーズンのJ1ではチーム唯一のリーグ戦全試合出場を果たした。そして今シーズンもチームの中心として際立った存在感を見せている。

試合後、ルーカスは「この歳でもまだいける」と話していたが、その最年長のルーカスに対しポポヴィッチ監督は「今日は若い選手がゴールを量産してくれた」とジョークを飛ばす場面も。この選手はみんなに愛されているんだなということが伝わってくる。

直接話したことはないが、チーム内では通訳を通さずに日本語でコミュニケーションを図っているという。その表情は試合中を除けば、いつも笑顔しか思い浮かばない。

FC東京での在籍は、まだ7シーズンと12シーズンの王様アマラオには及ばない。しかし、チームが苦境の時期に現役に復帰したおとこ気をサポーターたちは忘れることはないだろう。そして、失うことのない、明るく人を引きつける性格に加え、34歳になっても落ちることのないパフォーマンス。

サッカーにおける「本当によいもの」をFC東京は持っている。その宝を長く大切に使ってほしいと思っているのは、「青」と「赤」のサポーターの総意だろう。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている