F1シーズンはヨーロッパラウンドを終え、アジア、中東、南北アメリカ大陸へと続く最後のフライアウェイ(飛行機移動するレース)に入った。シンガポールGPでは、レッドブルのセバスチャン・フェテルが圧倒的な速さでシーズン7勝目を挙げた。

今シーズンは、当初こそタイヤが新しくなり、開幕戦では予選7位のキミ・ライコネンが勝利し、第3戦の中国GPでは予選3位のフェルナンド・アロンソ、そして第5戦スペインGPでもアロンソが予選5位から勝利し、波乱のシーズンかのように見えた。しかし、元F1ドライバーとしてウィリアムズに所属していた中嶋一貴は「タイヤの性能をあえて低くする現状は、ドライバーが我慢できるかできないかの勝負になりますね」と、昨年2回目の引退をしたミヒャエル・シューマッハーと同じ意見を述べた。

「例えばモナコGPですが、予選ポールポジションタイムは1分13秒876でしたが、決勝スタート直後の各車のタイムは、1分24秒台か23秒台でした。しかも、最初のピットストップ直前でも20秒台を切るか切らないかというラップタイムです。予選より10秒遅いタイムというのは、ドライバーからすると流している感覚です。もっと速く走れるのにタイヤが駄目になってしまうため、抑えて走っている。さらに、エンジンの回転規制やギヤボックス交換規制などもあって、マシンが限界状態で走ることが減りました。その結果、マシントラブルによるリタイヤも少なくなっています。リヤウイングを可動するDRSがあるので、オーバーテークは増えましたが、ドライバーの体力やマシンへの負担は減った。タイヤの使い方を各チームが理解したシーズン中盤以降は、フロントローのドライバーが有利になりました」

確かに予選5位のアロンソが優勝したスペインGP以降、フロントローに並んだドライバーだけが優勝を手にしており、さらに言えば、予選2位ドライバーが勝利したレースは4回のうち、フェテルが3勝を挙げている。つまり、シーズン当初に誰もが受けていた印象とは違い、弱肉強食を強調する結果となっている。天井知らずの予算と行き過ぎたマシンを是正するために取り入れたさまざまな規制もF1で働く世界最高レベルの頭脳の前には長くは持たない壁だった。しかし、その恐るべき習熟度を逆にたたえるべきなのかもしれない。(モータージャーナリスト・田口浩次)